駒大岩見沢-神戸弘陵 1999年センバツ1回戦
「きゅうたいれえ!?」
足早に帰宅した私は、思わず叫んでしまいました。ブラウン管の中で繰り広げられていた光景は、とても現実とは思えませんでした。プロ注目と言われた左投手はもうマウンドにはおらず、知らない右投手が投げており、スコアは9-0。
いったい何が起こったのか―――
1998年夏の甲子園に2年生主体の布陣で臨んだ駒大岩見沢でしたが、最終回の猛追及ばず岡山城東に4-5で敗れました。しかしその試合にスタメン出場した5人と途中出場した3人、合計8人が新チームに残り、秋の北海道大会では絶対的大本命という立場でした。
しかし順風満帆とはいきません。甲子園の岡山城東戦でも先発したエース・古谷拓哉(のちにロッテ)は、虫垂炎のため南空知支部予選に出場できませんでした。
さらに岡山城東戦で4番を務めた、高校通算42本塁打(卒業時)の中心打者・北村隆雄の打順がなかなか固まりません。思うように打線がつながらず、スラッガーの北村が1番を務めることもありました。
佐々木啓司監督も「プレッシャーがあった」と振り返る苦しい戦いでしたが、最終的には大会記録を更新する13本塁打(7試合)という猛打で北海道大会を制しました。なお、このとき札幌円山球場が改修工事中のため、全道大会は全試合札幌麻生(あさぶ)球場で行われています。
神宮大会に駒を進めた駒大岩見沢が初戦で対戦したのが、東海地区代表の海星(三重)。
プロ注目の右腕・岡本篤志(のちに西武)を擁し、夏の甲子園で東洋大姫路(兵庫)を7-1で破り1勝。さらに新チーム結成後は公式戦でも練習試合でも無敗でした。そんな海星を相手に、駒大岩見沢のヒグマ打線は完投した岡本から13安打10得点を挙げ、10-1で7回コールド勝ちでした。
しかしこの試合で古谷が利き手の左手首を亀裂骨折し、エースが不在の準決勝は日南学園(九州=宮崎)に4-9で敗れました。
神宮大会でのコールド勝ちが評価されたのか全国的にも前評判が高く、高校野球雑誌には「夢じゃない上位進出」などと書かれ、優勝候補の一角として扱われています。当時の北海道勢としては異例のことでした。
佐々木監督は「北村を中心に、脇を固める選手が揃った」「(4強入りした)6年前より手ごたえがある」さらには「歴代最強の打線」「今回は狙う」と自信を持っていました。
センバツ初戦で対戦したのは神戸弘陵(兵庫)。兵庫県大会で滝川二に敗れて準優勝、近畿大会で大阪学院大高(大阪3位)、高田(奈良1位)に勝ち、比叡山(滋賀1位)に敗れて4強という成績でセンバツ出場を決めています。
左腕エース・西嶋巧は秋の公式戦で88回1/3を投げて92奪三振の本格派で、大会屈指の好左腕でした。ショートの玉野秀明は、当時西武の玉野宏昌の弟。4番を打つ岡本博公は、2015年1月から神戸弘陵の監督を務めています。
そんな楽しみな試合だというのに、2日目第1試合のこの試合が行われた日、高校2年が終わった春休みだった私は、どうしても外せない用事があって登校していました(何の用事かは忘れてしまいましたが)。
大急ぎで帰路につき、まだ雪や氷が残る道路で転倒して尻を強打したことも覚えていますが、その間に以下のような試合展開になっていました。
1回表、神戸弘陵の左腕エース・西嶋がピリッとしません。1番北道貢・2番高橋広和と前年夏の甲子園でもスタメン出場した2人が連続四球で無死1、2塁となり、打席には3番北村。結局佐々木監督は北村を3番にするのが最適と判断したようです。
神戸弘陵は外野陣が大きく後ろに下がり、シングルヒットでも2塁走者が楽々生還できるほどのシフトを敷きます。それほど北村を警戒していたわけですが、結局は四球となりいきなり無理満塁。ここで早くも神戸弘陵は1回目の守備のタイムを使いました。
4番主将の鈴木隼人も前年夏の甲子園でスタメン出場したメンバー。ここでも西嶋はカウント2-0と苦しみます。常識的には1球待つところ、あるいは直球だけに的を絞って打ちに行くところでしょうか。しかし鈴木はおそらくカーブに的を絞っていたと思われ、3球目のカーブを三遊間に流し打って2点タイムリーヒット。駒大岩見沢が2点を先制します。
スタメン唯一の2年生・5番真貝夏樹は、前年夏の甲子園で1年生ながら代走で出場している選手。その真貝は送りバントに失敗して1死1、2塁となりますが、打席には6番小田譲二。北村に次ぐスラッガーの小田が下位打線にいるため、北村の打順を4番にこだわらずに動かすことができた面もあります。
その小田、初球のカーブをはじき返し、ものすごい打球スピードでセンターに達しました。これで1死満塁、送りバントの失敗は帳消しになった形です。
打席には7番ピッチャーの古谷。1球目の真ん中直球をあっさり見送り、2球目のカーブを鈴木と同じように流し打って三遊間をライナーで破り、2者が生還して4-0、なおも1死1、2塁となりました。
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