
北海-明豊 2023年夏の甲子園1回戦
2016年の夏の甲子園で見事に準優勝を成し遂げた北海。
その後も17年夏、21年春・夏と甲子園出場を果たしますが、なんとすべて神戸国際大付(兵庫)に1点差負けという珍しい現象に見舞われました。
翌2022年度は主力に下級生が多く、北海にとっては谷間の世代とも言えました。
それでも北海は南北海道の横綱。夏の南北海道大会ではベスト8まで勝ち上がりましたが、準々決勝の試合では北海道の高校野球関係者に衝撃が走りました。
北海0-19札幌大谷(7回コールド)
北海道では・・・いや、甲子園でも見たことも聞いたこともないようなスコアです。
神奈川大会で横浜が、大阪大会で大阪桐蔭が上記スコアで負けるようなものでしょう。
北海にとっては南北海道大会における歴代最多失点記録でした。
この試合は在宅勤務しながらチラチラ見ていましたが、北海は記録に残らないミスでピンチを広げ、記録に残るミスで失点し、冷静さを取り戻せぬまま一方的な試合展開になってしまったような感じです。
札幌大谷は22安打19得点。この22安打は南北海道大会最多タイの記録です。
一方の北海も6回以外は毎回ランナーを出したのですが、記録の上では2安打無得点、おまけに6失策でした。
この試合で北海は熊谷陽輝→長内陽大→熊谷陽輝→長内陽大と、2年生の2投手で継投しています。
吉田陽向らの3年生投手もベンチ入りしていたのですが、登板はありません。平川敦監督は「この悔しさをしっかり受け止めて秋につなげろ」という無言のメッセージを送ったのでしょう。熊谷は、
「自分のせいで3年生の夏を終わらせてしまった。秋は絶対優勝して甲子園に行く。先輩にも約束した」
と、並々ならぬ決意で秋の大会に臨みました。
秋の大会では熊谷がエースとしてのみならず、バッターとしても輝かしい結果を残し、決勝まで勝ち上がりました。
甲子園まで、そして先輩たちとの約束まであと1勝。
しかし前年秋に続いて、クラーク記念国際に敗れました。延長10回の激闘で、好投手・新岡歩輝との投手戦で1-3のスコアでした。
このクラークは翌年夏の甲子園にも出場して勝ちますから、レベルの高い死闘であったことがうかがえるでしょう。
北海道の秋季大会は10月前半には終わり、春季大会は5月上~中旬ごろに始まります。つまり、仮に秋の決勝まで残ったとしても負けてしまえば、7か月もの間、公式戦がありません。
ただでさえ雪に覆われ、真昼でも氷点下が当たり前の北海道。先が長すぎて、目標を見失いがちになることも珍しくありません。
しかし北海は秋の間に、着々と爪を研いでいたのです。
2023年の春季大会も決勝まで勝ち上がり、決勝では北海道栄を13-2の大差で破りました。故障のため登板がなかった秋のエース・熊谷陽輝が決勝で初めて登板を果たし、試運転まで済ませるというおまけ付き。盤石の優勝でした。
夏も本命の立場で、他校は必死に北海を追いかけましたが、他の追随を許しません。
夏の南北海道大会決勝でも再び北海道栄と対戦し、11-2とまた大差で破りました。
0-19で大敗してから1年。9か月遅れではありますが、熊谷は先輩たちとの約束を果たしたのです。
北海は前年夏を経験している3年生右腕・熊谷と3年生左腕・長内に加えて、3年生の最速147キロ右腕・岡田彗斗が急成長。
春に肘痛に苦しめられた熊谷は背番号3、腰痛に苦しめられた長内は背番号7となり、夏は岡田が背番号1を背負いました。
基本的には伝統の堅守のチームですが、上記の通り投手陣の層が厚く、打力も秋より磨きをかけてきました。全国でも十分に勝負できる好チームでした。
対戦相手は明豊(大分)。
2年前(2021年)のセンバツで準優勝、前年(2022年)夏の甲子園でも2勝を挙げてベスト16入りしている強豪校です。甲子園経験メンバーが数名残っていました。
その前年夏の甲子園終了後、練習試合で明豊の2年生捕手がファウルチップを鎖骨付近に受け、そのまま意識不明となってしまいます。
ヘリで搬送されて入院しますが、意識が戻らないまま11月5日に亡くなってしまいました。
ナインたちはこの部員を「甲子園に連れていこう」と誓い、打撃マシンに部員の名前のプレートを掲げ、天国にいる部員と常に一緒に過ごしてきたのです。
過去の明豊は強打というイメージでしたが、この年は打力は例年より劣るものの投手力に優れたチームという認識です。
そのためどちらかといえば投手戦を予想していたのですが、全く違った展開に引きずり込まれてしまいました。
北海の先発投手は、背番号3の最速147キロ右腕・熊谷陽輝。秋のエースですが、夏は調子を上げているとはいえまだまだ回復途上といった感じ。
秋は完投が多かった熊谷ですが、夏はほとんど継投で勝ち上がっています。
春にU-18日本代表候補に選出されますが、右ひじの故障のため辞退している注目の選手。
絶好調時は三振もガンガン奪うことができる熊谷ですが、地方大会では5試合、19イニング投げて5失点、奪三振11にとどまっています。
1回表の明豊は内野ゴロ3つで三者凡退となります。
明豊の先発は、こちらも最速147キロ右腕、3年生エースの中山敬斗が先発。大分大会では4試合、21回2/3を投げてわずか1失点という大黒柱ですが、ほかにも4人の投手が県大会で投げています。
中山は前年夏の甲子園でも2回戦の一関学院(岩手)戦で先発マウンドを経験していますが、2回途中5安打3失点でKOされました。その時の悔しさを晴らすための甲子園でしょう。
1回裏の北海も三者凡退に終わりました。
2回表の明豊、先頭の4番西村元希がセンター前ヒットで出塁。
送りバントの気配なく、5番木下季音は変化球を捉えてレフト前へヒット。無死1、2塁とチャンスを広げます。
しかし6番石田智能が初球の送りバントを空振り、2塁ランナーの西村が戻れず北海の2年生キャッチャー・大石広那の送球に刺されてしまいました。
その後石田が死球で1死1、2塁。
7番高橋佑弥は外角の変化球になんとか合わせますが、これが最悪のダブルプレーとなり、攻め切れませんでした。
2回裏の北海、1アウトから5番幌村魅影がヒットで出塁しますが、後続が倒れました。
3回表の明豊、先頭の8番義経豪がサード強襲の内野安打で出塁、9番中山がバントで送って1死2塁となります。
1~3番が左打者という明豊に対し、北海はここで早くもピッチャー交代。ファーストを守る背番号7の3年生左腕・長内陽大がマウンドへ、熊谷がファーストへ回ります。
南北海道大会でも見られた継投ですが、平川監督の想定よりは早いと思います。
試合を見ていて、エース・岡田彗斗の投入も前倒しせざるを得ないと感じていました。
明豊の1番高木真心は、前年夏の甲子園でも1番打者として活躍した選手。
長内は変化球を打たせてショートゴロ、2塁ランナーは進塁。続く2番西川昇太は四球で2死1、3塁となります。
ここで北海が守りのタイムを使いました。
3番柴田廉之助は、前述の亡くなった部員のバットを持って打席に入り、セカンドの横を抜けるタイムリーヒットとなり明豊が先制!
さらに4番西村もショート強襲への内野安打、しかし北海内野陣が適切に処理して外野へ打球は抜けず、これで2死満塁。
ここまで明豊打線が、北海の投手陣を全く打ちにくそうにしていないなぁ、と思いながら私は観戦していました。
5番木下をライトフライに打ち取りスリーアウトチェンジ。
明豊から見ればもったいない3者残塁とも言えますが、この先まだまだピンチを迎えそうだなぁと思わずにはいられません。

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