抱く (イチコジンカン #8)

美容室に行くとたまに
「クッションどうぞ」って
ゴールデンレトリーバーの子犬ぐらいの
大きさのクッションを渡される。

「要りません。」と断れるほど
日本人の根っこは枯れておらず。
「抱けへんわ!」と言えるほど
芸人の花は咲かせてない。
「あ、はい。」という返事と共に
僕の両手は自由を奪われる。

でもまあ、自分がそういう人間だからこそ
「クッション」でよかったなって思う
「クッション」だからこそ何とか
受け入れようとできるのかもしれない。


「タイヤどうぞ」って
渡されたらどう言えばいいだろう?

「持ち方教えてくれ」
「俺、パンダちゃうねん」
「トランスフォームの途中か!」

まあこのあたりだろう
「いやです」と断るほど美容師とは
関係性もできてないし、
美容師も「そんなつもり」は
ないだろう。

「鰤(ブリ)どうぞ」

これには
「出世し切ってるんかい!」
って返すがいいですね。
差し出した相手に
「イナダならええんかい」
って返す猶予を与えている
愛のある拒否ですよね。

「煮物どうぞ」

これはすかさず
「このご時世お隣さんでもあげへんで」
これですね。
美容師と同時に世相も切るのがいい。
もし煮物が「筑前煮」の時だけ
「髪切る直前に?」がいいだろう。
一回タッパーの蓋を開けて、
「筑前煮?髪切る直前に?」
韻を踏んだことを明確にすれば、
より一層、美容室はドッ!だ

「卒アルどうぞ」

「いやお前の思い出は抱えきれん」
抱えるのダブルミーニングに美容師が
少しひるんでいるところに
「ここから髪型選んだろか」
「いや男みんな同じ髪型かい」
「進学校なんかい」
ここまで畳み掛ければ、
美容師のハサミもジャキジャキだろう。

でもこう考えると
「クッションどうぞ」は
初対面の人と接する時の
「ワンクッション」
になっているんだろうな。

もう年の瀬か

「来年の抱負は?」

「いや、負けを抱かすな」

ワンモアタイム アリトモ

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