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【小説】田舎暮らし案内人奮闘記 第10話

こんにちは、移住専門FP「移住プランナー」の仲西といいます。
ここでは、これまでの17年間の活動、2500組以上の移住相談対応から
皆さんに役立つ情報を書いています。
今回は、これまで受けた移住相談を小説風に書いてみました。
気に入った方は、フォローをしていただけると嬉しいです。

第10話 善意を踏みにじる!空き家占拠トラブル。


私の朝の日課。

5㎞のジョギングとシャワー、梅干しと卵かけご飯、そしてスマホで為替相場をチェック。
やがて、遠くから小学校のベルが聞こえてくると、私も子供たちと同じ様に、書斎に向かいデスクに向き合う。
そして、教科書の代わりに、PCを開けて電源を入れる。

まずは、メールチェックが仕事のスタート。
本日も受信トレイには50件の未読メッセージ。
移住に夢見る人からの熱いメッセージが届いている。

相談メールをフォルダー移動し、着信の古いものから内容を確認。
子供のようにワクワクした気分でメールを開く。

本日の相談

小山正章。年齢は65歳です。
公務員を退職後、キャンピングカー生活を楽しんでいます。
結婚はしておらず単身です。
そろそろキャンピングカー生活も飽きてきたので、どこかに定住をしようと考えています。
そちらが紹介している空き家を内覧したいのですが、案内をお願いできますか。
現在○○市に居ますので、明日訪問しても大丈夫ですか。

「キャンピングカー生活から定住先を探している」とのことで、私は何の違和感もなかった。
特に、「公務員をしていた」ということで、妙な安心感も感じていた。

翌日、小山氏は時間通りに来た。
その後、ご希望の空き家を案内し、購入を即決した。

そこで、小山氏から提案があった。

キャンピングカー生活に飽きているので、今夜からでも入居できないだろうか。
>売買契約を終えるまでは所有権が移転できない。

売買契約書はすぐに作成できるだろうか
>個人売買なので司法書士に契約書を依頼する。

明日、契約できないだろうか。
>所有者と司法書士に確認をしてみる。

私は強引な申し出に少し戸惑ったが、所有者と司法書士に購入者の希望を伝えた。
翌日、売買契約書が作成され、双方の捺印が完了した。
そして、即日、お金を入金することを約束し、小山氏は購入した物件に入居をした。

嵐のような手続きに、少し戸惑いながらも、私と所有者は売買契約が完了したことを喜んだ。

しかし喜びもつかの間、「いつまで待っても口座にお金が振り込まれない」と、所有者から連絡があったのだ。

私は慌てて、小山氏に連絡をする。

小山さん、購入物件の金額が振り込まれていないのですが。
>残置物(家財)を片付けてもらえますか。

それは、購入者が片付ける話をしましたよね。
>それは知らない。売買契約書にも記載されていない。
 明日から2日間、家を空けるのでその間に片づけてもらえますか

とても、強引な口調であった。
契約前とは人柄が変わっているようにも思えた。
私は所有者と相談をし、今回だけは、相手の要求を飲むことにした。

しかし、その後も細かいクレームが続いた。

そして、お金が支払われないまま2か月が過ぎた。


小山さん、まだ売買金額が支払われていないですね。
所有者の方がとても困っておられます。

>この建物は未登記ですよね。登記をしてもらわなければお金は払えません。

それは、売買契約の締結時にお伝えをしていますよね。
売買契約書にも「未登記物件」と明記されていますよね。

>未登記物件は知っていますが、登記をするものだと思っていましたよ。
 登記していない物件にお金など払えないですよ。

完全にクレーマーであった。



結局、然るべき人たちと相談し、退去の通達を行うことになった。
「強制退去」である。

そして、小山氏は誰に謝罪をすることなく、私に家の鍵を渡して去っていった。

人は奥深く、本来の姿は簡単に解るものではない。
そして今回は、所有者だけでなく購入者にも、何ひとつ得が残ったわけではない。
強いて言えば、私たちは良い勉強をしたのかもしれない。

一期一会ではあったけれど

悪い出会いも経験としてとらえて・・・

(終わり)



#創作大賞2024 #お仕事小説部門


移住専門FP「移住プランナー」として活動をしています。これまで18年間2500組以上の移住相談に対応をしてきました。ここでは、私の経験からお役に立てる情報を日常的に綴っていきます。「移住」という夢の実現にお役に立てればうれしいです。大阪出身、北海道と鹿児島の3拠点生活中。