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単なるレイトショーの終わりに

久しぶりに街に出ていた。信号機を待つ人たちの群れの中には美しい身なりの女や奇抜な服を着たユース、GUCCIのTシャツを着た外国人らがいて、彼らは皆幸福そうに見えた。男はイヤホンから流れる音楽を退屈に感じていて、その曲を今にも止めようとしている。そしてイヤホンを外す、映画館の中に入る。

映画館はそれほど人が多くなかった。目当ての映画はもう始まっていて、男はその半券を持って劇場に入るが、人影はそれほど見えず、Gー7の席に座る。両隣に人はいない。男は誰もいない映画館の誰も観ないような映画を一人で観ている。そして男は、その映画を観ることが無駄なことだったように思う。あるいは意味のないことのように思う。同時に事実として、それを無駄だと多くの人が思う。加えてそのような面白味もない映画を観ることをおかしいとさえ人は言う。それでも男はその映画を観る。正当に退屈し、最後までスクリーンに向き合い続けている。

映画が終わり、人がまばらに劇場を出て行く。そして男も同じように劇場を出る。映画館を出た時、男はその映画を同じように観ていた若い女の横顔を見る。女は髪が桃色で、それを少し潤ませたような具合にまとめているのだが、あるいは彼女が中指を立てた外国人の女の描かれたグラフィックTシャツを着て、丈の合わない柔らかな絹のようなパンツを履いてるのだが、その女の横顔がこちらを向いて、二人は目が合う。

男はしばらくその女の目を見つめていた。そして女もしばらくこちらを見つめていた。

しばらくして二人はお互いに歩み出す。そして視線を外しすれ違い、振り向くことも無く街に消えていく。男はまた音楽を聴くためにイヤホンをする。また退屈な音楽が流れ始める。