The Moon and Sixpence
芸術の価値は誰に、どの様に決められるのか。
その価値基準は?傑作と駄作の違いは?
芸術の価値とは至極恣意的で、主観的である。難解な絵画を前に、「芸術の価値」について疑問を抱いた経験がある人も少なくないのではないか。
サマセット・モームの「月と6ペンス」を読んだ。絵画に全てを捧げ、タヒチで人生を終える画家の物語。モデルはもちろん、ゴーギャンである。
彼は文字通り、全てを絵画に捧げる。彼が捧げるものは自分自身の「全て」では終わらない。家族、友人、恋人の人生までも壊すことを躊躇わず、絵画に没頭する。簡単に言ってしまえば、酷く残酷な生き方。
語り手は、しかし、彼のそういった生き方にある種の感銘を覚える様になる。彼は人にどう思われるかを厭わない。彼の世界には、絵画と彼自身しか存在しない。そしてその神秘性に少しでも近づくためなら、この世の些末な人間関係や個人の人生など犠牲になって然るべきなのだ。
狂気じみた彼の生き方は、芸術に向き合う姿勢の究極的な形の真実なのではないか。多くの芸術家が、名声や富に目が眩み、本来の目的である「美との対話」を放棄してしまう。世間の評価を意識せざるを得なくなる。
画家の人生が啓示する「美の哲学」は私の理解を絶する。ただ面白い、興味深い。