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TITANE/チタン 全てを越えた愛の物語
元旦早々ドえらい映画を観ちゃったという話を投稿しました。
同じ監督の有名な作品も観たくなってアマプラでレンタルして観ちゃいました。これまだドえらいというか、いったい私は何を観たんだろうみたいな、大変な作品でした。
ネタバレしまくりですし、予備知識を入れなくても初回の鑑賞で困ったことにはならない映画だと思うので、これから観たい人は読まないのが良き。
▼登場人物
アレクシア(アドリアン)
頭蓋骨にチタンプレートを埋め込んで以来、自動車への性的嗜好とシリアルキラーとしての性質が芽生えてしまった女性。
ヴァンサン
10年前に7歳の息子アドリアンが行方不明になり、アドリアンに成りすまして現れたアレクシアを、本当は他人であると薄々勘づきつつも迎え入れた消防団のリーダーのおっさん。
▼あらすじ
幼い頃、交通事故により頭蓋骨にチタンプレートが埋め込まれたアレクシア。彼女はそれ以来<車>に対し異常な執着心を抱き、危険な衝動に駆られるようになる。
自らの犯した罪により行き場を失った彼女はある日、消防士のヴァンサンと出会う。10年前に息子が行方不明となり、今は孤独に生きる彼に引き取られ、ふたりは奇妙な共同生活をはじめる。だが、彼女は自らの身体にある重大な秘密を抱えていた-。
ストーリーとしては単純な一本道ですが、映像がすさまじくて引き込まれてしまいます。最初から最後までテンションを保ったまま観れました。
話はわかりやすいのですが、主人公のアレクシアの、特に映画の導入部分の行動は理解しがたいところがおおいにあります。
そしてその後の展開に大きな影響を与える「自動車とセックスして妊娠する」という部分はなんだそれ?なんですが、ここに関してはそういうものだということにしてスルーしておくのが良さそうです。
そういう設定なんだから、みたいなことじゃなくて、大きなテーマについての解釈によっては、車とヤッて妊娠ということ自体も、この世界では納得できないこともない、みたいな。後でちょっと触れます。
映像のすさまじさ、序盤のアレクシアのシリアルキラーっぷりのところ、痛すぎてたまんないです。
北野武のアウトレイジにも似たシーンがある、耳にかんざし刺して殺害とか(アウトレイジではラーメン屋のさいばしでしたけど)、椅子で殴り続けて椅子の足でトドメを刺すとか。アウトレイジの痛い表現がかわいいもんだと思えるほどに痛いです。
でも、映像のすさまじさで言ったらバイオレンスシーンは序の口で、平凡であるとさえ思えます。
本当にすごいのは、アレクシアの身体の変化を表現する映像です。冒頭のシーンでは頭に縫い跡があるしケバいけど、とても美しい女で、シャワーシーンでの裸も実に美しいんです。
恐ろしいのはアドリアンに成りすますために髪を切り、眉を剃り、鼻を折って人相を変え、サラシを巻いて男性化した後です。
変装をした直後は、美人が男装しているとしか見えないんですが、ヴァンサンと出会い息子として生活するうちに、華奢ではあるもののどんどん男になっていくんです。途中で役者が代わったのかと思うくらいに。
見た目はどんどん男になっていくのに、妊娠しているからお腹が出てきて、身体は女になっていく、この姿を見るとワケがわかんなくなります。こんな奇妙な姿はマンガでも見たことないです。
そして出産シーン、腹が裂けてチタンの子宮(?)の一部が露出し、生まれたのが頭の一部と背骨が金属の赤ちゃんという衝撃。若い頃にハマった塚本晋也の「鉄男」を思い出しました。
こういった映像の強烈さでグイグイ引っ張る映画ではあるんですが、終盤は不気味な映像とは裏腹に感動的ですらあります。
アドリアンが偽物と知りつつ息子として愛を注ぐヴァンサン、その愛を受け入れて親として愛するアレクシア。そして最初は邪魔でしかなかった上に、何が育ってるのかわからないお腹の子への母性的な愛情。
こんな奇妙で異常としか思えない関係なのに、映画に引き込まれていると美しい愛情が感動を誘うんです。
ラストシーンでは完全にアドリアンが赤の他人の女であることがわかっても、何があってもお前は俺の息子だと愛を注ぐヴァンサン、それに応えて死んでいくアレクシア、生まれたチタンの赤ちゃんを優しく抱くヴァンサン。
ここだけ見たら気持ちが悪いと感じそうなものですが、ここまでを観てきた者にとってはこれが感動的に見えちゃうんですから、映画ってすごいもんです。
ここまで来ると、実の親子であろうがなかろうが、身体が男であろうが女であろうが、チタン製であろうが、血の繋がりや性別に関係ないことは言うまでもなくって、さらに人間ですらないかもしれない赤ちゃんですら愛せてしまう、これが大きなテーマなんじゃないかと。違うかもしれないけど。
私が感じたのはこんなところですけど、もっと教養がある人だったり、映画通の人だったらもっと色々見えて面白いのかもしれません。
そしてそういう深い理解をした方が楽しいという人に向けて、公式サイトにものすごい詳しい解説が載ってますね。鑑賞した後に読んでみたら、私みたいな無教養人間でも楽しめましたんでおすすめです。