「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」変態監督の激オモキモ映画
特に何の予備知識もなく、適当にアマプラで観れるやつの中から探して観ました。ものすごい面白かったです。ネタバレ丸出しです。
題名の「鹿殺し」って何?って話ですけど、ギリシア悲劇のとあるお話に由来するんだそうです。
その昔、ギリシアの王様に対して神様が選択を迫りました。国民全員死んじゃうか、自分の娘を生贄に差し出すか。王様は娘を生贄の方を選び、娘本人も覚悟を決めます。
娘の首をハネる時に、さすがに見てられなくて目を閉じて剣を振り下ろし、目を開けるとそこにあったのは娘の遺体ではなくって鹿の死骸。どうにか国民を救うことができましたとさ、みたいな話があるんだそうです。
つまり「鹿殺し」には、犠牲とか命の価値の比較・選択みたいな意味合いがあるようです。
映画本編の内容に入ります。
優秀で金持ちで、美人の妻と元気な2人の子供に恵まれた申し分ない外科医のスティーブンですが、時々マーティンという少年と会っています。この時点では特に何の説明もないので、最初は普通にスティーブンの息子がマーティンかと思いました。
スティーブンには2人姉弟の子供がいることがわかって、じゃあマーティンは何者?もしかしたら前妻との間の子供?不倫相手との隠し子?
何にせよ、マーティンの登場シーンはこれからこいつが発端で悪いことが起こりそうな雰囲気に演出されてるので、非常に緊張感のある感じで話は少しずつ進みます。
何だかんだで、スティーブンが酒のんで手術したせいで失敗して、マーティンの父を手術中に結果的に殺してしまったという出来事があったとわかります。
その負い目があるスティーブンはマーティンに超高い時計をプレゼントしたり、忙しい中会ったりするわけですが、表面上穏やかに接する2人の何とも言えない緊張感といったらもう。
マーティンとその母の中で、家族を亡き者にした埋め合わせをスティーブンに求めるのは当然だという考えがあるようです。
そこで、マーティンがスティーブンを自宅に招き、母親がスティーブンを誘惑するという展開に。父を奪われたんだからその埋め合わせにアンタが父になれという理屈です。1引いたんだから1足してくれみたいな、この時点で異常です。
母の誘惑をスティーブンが振り切った後から、とんでもない展開に。
まず、末っ子のボブが歩けなくなります。そんな折スティーブンと会ったマーティンはとんでもないことを言い出します。
・スティーブンの家族のうち1人が死亡する
・誰が死亡するからはスティーブンが選んで良し
・ただしスティーブン自身は死亡しない
・死亡に至るには4つの段階がある
・1)足が動かなくなる
・2)食事を受け付けなくなる
・3)目から出血する
・4)死亡する
娘のキムも歩けなくなってしまうんですが、2人とも病院で精密検査をしても全く異常なしで原因不明。心理的な原因ではないかという結論に。食事も受け付けないので栄養剤の摂取でどうにか生きているという状態に。
スティーブン一家の全員が、誰か1人が犠牲にならなければならないという状況を理解するんですが、ここからが怖い。
子供たち2人とも、自分だけは助かりたいと、父に命乞い。妻は妻で「選ぶなら2人の子供のうちどちらかでしょ、子供はまた作れるし」と言い出す始末。
結局、ボブの目から出血が始まってタイムリミットが迫る中、スティーブンは目隠しをしてライフルを乱射して、そのうち1発がボブに命中してバッドエンド的に物語は終わります。
映画全体を通してテンションが低い感じでずっと不気味さが続きます。声を荒げるようなシーンもあるけど少なくって、少しずつ気持ち悪さが蓄積していくような感覚です。
で、マーティンがいったいどうやって姉弟の身体に異常を発生させたのかっていうところですけど、ここは作中で何の説明もないです。マーティン親子が呪いをかけたとでも解釈するしかありません。
呪いによって、犠牲の選択、命の価値の比較っていうキツすぎることを強いることで、父を殺した償いをさせるっていう話です。
酔っ払って手術したスティーブンが発端ですが、ちょっとやりすぎ。・・・とは思えない描き方をしているところがキモです。
スティーブンはスティーブンで自分を犠牲にしてでも家族を助けてくれとは言いませんし、妻は子供2人のうちどちらかを犠牲にして当然だと思っています。
キムは私が犠牲になると口では言いながら、そう言えば同情を惹くことができて助かるという打算があるし、幼いボブですらこれからはいい子でいるし、お父さんと同じ外科医になりたい、だから助けてと懇願する。
家族全員、他の誰かが犠牲になっても自分は助かりたいと思っており、結果的に偶然か必然か、ボブが選択されてしまうという救われない結末をむかえます。
基本的に細かい説明がなくって、謎がキレイに全部解明されてっていうタイプの映画じゃないです。考察好きな人なんかは色々考えると楽しめるのかも。
でも逆に、ここはこういう解釈であるみたいに真面目に考えすぎてもキリがないというか、多分答えはハッキリあるわけじゃないことも多いんで、全体の奇妙な雰囲気を楽しんでおくというのが良いんじゃないかと思います。
一体どういうところから発想してこんなと映画を撮るんだと思うわけですが、これ撮ったのって「ロブスター」撮ったのと同じ監督なんですね。なんだか納得です。
「ロブスター」の方もいったいどっから発想して撮ったんだみたいなとんでもない映画ですごい面白いので、「聖なる鹿殺し」見て面白かった人はぜひ観てみてください。