「きちんと知りたい!自動車エンジンの基礎知識」執筆顛末記
ちょっとあざといが、自分の本の宣伝を……。
2005年から単行本を書く機会を与えられて、これまで12冊書いてきた。同業者と比べてもしかたないが、この手の本としては割と多い方ではないかと思う。ライターとして充実しているときもあれば、仕事が減ってアルバイトをしているときもあったので、一冊一冊を見ると、そのときの自分の状態が思い出されて、思わずうるっとくる?こともある(わりと真面目に……)。
その中でも大きな転機になったのが、日刊工業新聞社から執筆依頼があったときだ。それまでは、わりと自分の経験や取材で書ける内容のものが多かったのだが、
「自動車のエンジンの解説を書いて下さい」
と担当編集者に依頼されたときは、
「私には荷が重いと思います。そういうのは専門に勉強した人が書くものだと思うので」と一度お断りを入れた。
それまでもグランプリ出版から「モータースポーツのためのチューニング入門」という本は書いていたが、エンジンに関しては、どういうパーツをつけたらこうなるというような、限定的な内容だった。エンジンを基礎からというのは、さすがに気が引けたのも事実だ。それでも編集者は食い下がる。
「専門家じゃなくてもいいんです。基本をわかりやすく書いてもらえれば」
「もっといいライターがいるんじゃないですか?」
「これまでもエンジンのことを書いているじゃないですか。大丈夫ですよ」
「簡単な原理くらいはわかりますが、エンジン組んだこともないですよ」
「専門家が書いたものが必ずしもわかりやすいということはないんです」
この編集者の言葉で思い出したのが、かつてのグランプリ出版の社長の言葉。ちなみにこの社長は山海堂という出版社で、オートテクニックの初代編集長を務めている人だ。その時私が本の執筆で、実地で知らないことを書くのをためらっていたときに、「知っているということと書けるということは違う。君は書けるのだから調べて書けばいい」というようなアドバイスをくれた。ご自身も文系の学部出身だったが、多くの工学系の良書を書いているだけに、説得力があった。(ちなみに私は大学では日本文学専攻。)
そんなことを思い出してつつ編集者の前言を受けて「それはまあ否定しませんが……」と軟化すると、
「資料はなるべく用意しますので、なるべく噛み砕く感じでお願いできませんが」
「まあ、それならなんとかなるかなあ」
という感じで書き始めたのが2014年の春頃。
それが「きちんと知りたい!自動車エンジンの基礎知識」という本にまとまるまでに1年弱くらいかかった。書く段階で、今までは気にはなっていたが敬遠していた専門書を読んだり、中途半端に読み散らかしていた関連本も読み、自分自身大変勉強になった。
で、この本だが売れ行きが大変良くて、今月で9刷となりまだ売れ続けている。それまでなかなか重版というのはなかったのだが、これがそこそこ売れたことで、なんとなく自分も著者と堂々と言っていいかなあと思えるようになった。
あのとき断らなくてよかったです、はい。