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お別れしたうさぎさんの話〜ホーリーの宇宙船

 最近、ペットのうさぎさんがお月さまに帰りました。うさぎがいた生活は最高でした。そんなうさぎさんのいた暮らしを懐かしんで、お話を書くようになりました。読んでいただけたら、とても嬉しいです。


 【ホーリーの宇宙船】

 私はホーリーです。チョコレートの色のうさぎさんです。

 飼い主さんが、昔観たアニメのキャラクターと同じ名前をつけてくれました。そのキャラクターはチョコレートのお化けだそうです。

 飼い主さんはいつも私を「ホーリー、ホーリー」と何度も呼んでくれました。
 私は自分の名前を呼ばれるのが大好きでした。

 ただ、飼い主さんは出張が多いお仕事でした。飼い主さんは日本中に、時には外国にもお仕事で出かけて行きました。
 その間、私はお留守番をしなければなりません。一泊の時はお家で、それ以上の時はペットホテルでお留守番をします。

 お留守番は大嫌いです。
 お家でのお留守番の時、飼い主さんはたっぷりのお水と私の大好きな食べ物をいっぱい用意してくれます。ペットホテルの店員さんもとても優しいです。
 でも、飼い主さんに会えないとさみしいのです。

 初めてお留守番をした時は不安で不安でいっぱいでした。いつも夜には帰ってくる飼い主さんが全然帰って来ないのです。
 
 待っても待っても帰って来ないので私はまた一人ぼっちになってしまったのかと思いました。
 お母さんから引き離された時のことを思い出して、ケージの隅でガクガク震えていました。

「ホーリー!ただいま!」

 飼い主さんが出張から帰ってきても私は安心できず、ケージの隅でしばらく震えていました。
 飼い主さんがなでなでしようとしても、怒って前足でパンチをしていまいました。

 でも、飼い主さんは辛抱強く私が落ち着くのを待って、なでなでをしてくれました。
 その時に私は気づいたのです。
 飼い主さんがどんなに遠くに出張しても、必ず帰ってきてくれることを。

 それから私はお留守番にすっかり慣れました。さみしいけれど平気です。
 一泊の時は飼い主さんが用意してくれる食べ物をむしゃむしゃ食べて、ペットホテルではのんびりして飼い主さんの帰りを待ちました。

 そんな日々が続いたある日、私は少しずつ弱っていきました。お医者さんは老化だと言っていました。
 いつも疲れていて、ご飯もたくさん食べられなくなりました。なかでも一番困ったのは足の裏が痛くなってしまったことです。
 お医者さんはソアホックと言って、薬を出してくれました。でもあまり効きません。

 痛くて痛くてお散歩もあまりできません。それどころか立っているのも辛くなってしまいました。

 そんな時、また飼い主さんが出張をしなければならなくなりました。さらに悪いことにとても長い出張で、一週間もあるというのです。
 私はペットホテルに預けられることになりました。

「ホーリーごめんね」

 飼い主さんは私をキャリーケースに入れました。
 キャリーケースは金網でできています。丈夫ですが、冷たくて固いです。お家のケージのプラスチックの床よりもずっとずっと足の裏が痛いです。

 移動する時、飼い主さんはあまり揺れないように細心の注意を払ってくれました。でも、やっぱり少しは揺れてしまいます。
 私は足が痛いので踏ん張れません。どうしてもキャリーの壁にぶつかってしまいます。
 ぶつかる度に私は「ぶうぶう」と鳴いてしまいました。

「ホーリーごめんね」

 飼い主さんは申し訳なさそうに謝っています。

 そして、悲しいここにやっと着いたペットホテルのケージも金網でした。
 すごく痛そうだったけれど、飼い主さんはホテルを出る前に「ごめんね、ごめんね」と言うので、私は我慢しようと思いました。

 これからホーリーは一週間も飼い主さんが帰ってくるのを待たないといけません。
 でも、私は平気です。飼い主さんは必ず迎えに来てくれると知っているからです。

 金網が痛いのでケージのなかを歩き回ることはできません。ご飯はお家と同じものを飼い主さんが用意してくれたけど、あまり食べる気にはなりません。
 
 ペットホテルの店員さんがなでなでしようとしてくれたけど、そんな気にもなりません。ただ、お尻を向けてケージの隅で丸まっていました。

 やっと一日が経ちました。長い長い一日でした。でも、まだまだ六日も待たなければなりません。
 ご飯を食べていないので目が回ってきました。

 そして、何となく飼い主さんには二度と会えないような気がしてきました。

 そこで私は眠ることにしました。うさぎは完全に眠ることはありません。眠っているように見えても片耳だけ起きていることが多いのです。
 でも、私は完全に眠ることにしました。眠ったら夢で飼い主さんに会えるかもしれません。
 ペットホテルの店員さんはとても心配そうでしたが気にする余裕もありません。

「ホーリー!!!」

 その時、飼い主さんの声が聞こえました。私は夢に飼い主さんが出てきたと思いました。

「ホーリー!ホーリー!」

 それでも飼い主さんの声は何度も聞こえて来ました。私は気付きました。飼い主さんが本物に迎えにきてくれたのです!

 実はペットホテルの店員さんが飼い主さんに電話をしてくれたのです。私がご飯を食べずに眠ってばかりいると聞いた飼い主さんが、出張を切り上げて戻ってきてくれたのです。

「ぶうぶう!」

 私は足が痛いのも気にせず、ケージの前の方に駆け寄りました。頭を差し出すと飼い主さんがなでなでしてくれました。飼い主さんのなでなでが、やっぱり一番でした。

「ホーリーちゃん、お家に帰ろうね」

 でも、飼い主さんがそう言った時、私はとても不安になりました。キャリーケースは金網でできているし、たくさん揺れるので壁にぶつかってしまいます。
 私は怖くてガクガク震えてしまいました。

「ホーリー、大丈夫だよ。今日はこれに入って帰ろうね」

 でも、飼い主さんは新しキャリーを用意していてくれたのです!

 それは今までのキャリーと比べものにならないほど大きなものでした。カラフルでピカピカでまるでNASAが開発した最新の宇宙船のようでした。
 キャリーの中も全部柔らかいプラスチックでできています。これなら足の裏も痛くないし、壁にぶつかっても平気です。

 私はピョンと跳ねて、宇宙船のようなキャリーに入りました。そして、飼い主さんとお家に帰りました。帰り道はとても快適でした。

 それから飼い主さんと私は、ずっと一緒に過ごしました。飼い主さんは全ての出張を断って、勤務も在宅にしてもらったそうです。
 これからは飼い主さんとずっと一緒にいることができます。私はもうお留守番をしなくて良いのです。

 でも、そんな日々は長くは続きませんでした。ついに私がお月さまに帰る日がやってきたのです。
 飼い主さんは私が旅立つ時も一緒にいてくれました。だから、私は安心して旅に出ることができます。

 ただ、あのキャリーケースを使ったのが、一回だけなのが気になりました。
 あのキャリーケースは大きくてピカピカでした。飼い主さんはきっと沢山のお金を払ってあのキャリーを買ったはずです。
 そう考えるとすごく申し訳ない気持ちになりました。

 そうしているうちに旅立ちの時間がやってきました。私はいっぱい走って、いっぱいピョンピョン跳ねてお月さまに帰らなければなりません。
 すごく長い旅だと聞いていました。でも、私はは出張いっぱいのお仕事を頑張る飼い主さんのうさぎさんです。どんな長い旅でも平気です。

ピコピコピコピ〜♪

 しかし、そんな私に思いもしないことが起こりました。
 なんとお迎えの船がやって来たのです!

 お空からピコピコ光る謎の飛行物体が降りてきました。大きくてピカピカでプラスチックでできた宇宙船です。
 その形には見覚えがありました。飼い主さんが私のために買ってくれたキャリーケースです。このキャリーケースが私を月まで運んでくれるのです!

ビューン!!!

 月までの旅は一瞬でした。少しだけ揺れたけど、壁も床も柔らかい素材なので安心です。旅はとても快適でした。

 月に着陸すると、月に住んでいる仲間のうさぎたちはとても驚いていました。

「ホーリーちゃん!すごい宇宙船だね!」

「大きくてピカピカだ。しかもとっても新しいね!」

「こんか宇宙船に乗れるなんでホーリーちゃんはすごいうさぎさんなんだね!」

 仲間たちに褒められて私はとても良い気分になりました。

「うん!飼い主さんが私のために特別に用意してくれた宇宙船なんだよ!」

 私はみんなに心置きなく自慢しました。なぜなら、この宇宙船は飼い主さんの愛情の証だからです。

以上

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