
「あなたを待つ時間」
わたしはラベンダーの香りが好き。いつから好きになったのかわからないけれど、気づけばどっぷり浸かっていた。入浴剤、シャワージェル、ボディソープ、ルームスプレー、ピローミスト。香水の原材料にもラベンダーが使われている。とにかく無意識にラベンダーを選びがち。ラベンダーには安心感、リラックス、入眠作用があるらしく、夜の使用を推奨されているみたい。だけど、わたしは朝一番からラベンダーに埋もれている。好き、ただそれだけなんだけど、言われてみれば気持ちばかりの和らぐ心があるような。本能が安心感を求めた結果、ラベンダーに辿り着いたのかもしれません。
ラベンダーの花言葉は「あなたを待っています」「沈黙」です。
ふと、花言葉が気になって調べてみた。沈黙の待ち人。想像以上にロマンチックだった。誰かのことを辛抱強く待ち続けるその姿からは、若干の哀愁が漂っている。「待たされる」のではなく、「待っている」。あくまで主体的に待つ。そして、沈黙する。まるで物語の登場人物のような、わたしもそんな生き方がしたいと思った。
「あなたを待っています」の言葉を見た時、誰の顔も思い浮かばないのは、自分のことだけで精一杯だからなのでしょうか。気付けば、誰かのことを「想う」ことが少なくなった。日常のなかからほとんど消失してしまった。それが悪いことだとは思わないけれど、人生の色彩が大きく薄れるような、そんな感覚があります。たった一人の存在で、想い人がいるだけで、人生が鮮やかだと感じる心は、いかにも単純で人間らしさそのものだと思う。そういった意味では、わたしはとっても人間らしい生き物だった。
いつかあなたと、ラベンダーの香りを分け合うことができたなら。きっとそれは愉快で、くすぐったくて、少しばかりの幸福感。これは夢の中に限った話しで、現実は夢とはかけ離れている? 人を避けることも、寄り添うことも、自分次第なわたし達だから、なにを感じて、だれを想いながら、これからの心臓を生きようか。いつかは死んでしまうけれど、せっかく生まれてきたのだから、あともう少しだけ、想ってみてもいいですよね。それは底が見えない沈黙のなかで、誰にもそのことを伝えないまま。わたしはあなたのことを、待っています。
「たとえそれが、幻想のなかであったとしても」
了