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5年間で何が値上がりしたのか

 さてひとまずは先週発表された消費者物価指数(全国・4月)から.前年同月比で2.5%上昇ペースが緩んでいることがわかります.また,季節調整済み前月比をみると直近の総合指数の上昇が主に生鮮食品によるものであることがうかがえる.

2020年基準 消費者物価指数 全国 2024年(令和6年)4月分

 ここからも「インフレが加速しており早急な利上げが必要」「円安で物価高が止まらない」といった主張はデータの裏付けがあるものではないことが確認されます.
 6月には電力各社への電気量抑制補助がなくなるため,消費者物価指数は上昇率が大きくなります.昨年からの繰り返しているようにこのニュースはきっと「インフレが加速した!利上げが必要だ」という主張を喚起します.4~6月のインフレは再エネ賦課金と電気料金補助金廃止によるものです.これを金融政策で変えることはできません.6月のCPI(都区内速報が6月下旬,全国が7月)が発表される際には念頭に置いておきましょう.

 その一方で...なんだかモノの値段が上がったような気がするのも確かです.この「実感としてのインフレ」がどこから来るのか.短期的な物価動向ではなく...コロナ前にくらべて何が高くなったのかを調べてみましょう.

 今回はデータ紹介と節約レシピです.


比較の方法

 コロナ中に急激に価格が上がったり,需要不足(途絶?)で値下がりしたり,旅行支援等によって価格が乱高下したり・・・2022年頃からは供給能力の不足による価格上昇が起きたり.20年近く動かなかった物価がいきなり動き出したことで,少なからぬ人の「物価への主観的な受け止め方」に混乱が生じています.
 そこで本日は2017年・2018年・2019年3年分の平均値(各4月データ)と2024年4月の物価を比較することで「コロナ前に比べて何がどれだけ高くなったのか」をみてみましょう.
 なお,3年間の平均を取るのは本エントリの後半で生鮮食品の品目別価格上昇をみるためです.生鮮食品は転向などの影響で乱高下するため,その影響を馴らしました.

 まずはヘッドラインから♪

 消費者物価指数総合はコロナ前から8.6%の上昇です.ここで第一の論点.2019から2024年の5年間で「たった」8.6%のインフレなんです.年率2%以下ですよ...これを年率8%以上のインフレを経験した米欧と同じ問題として語ってはいけません.
 しかも,この8.6%の多くは食料・エネルギーに由来します.食料品価格は家計消費の26%を,エネルギー価格は7%を占めるため,ここが大きく上昇することは,人々が値上がりを強く感じる原因になるでしょう.

少し分類してみる

 では,次に物価指数をもう少し分類してみてみましょう.俗に中分類と呼ばれるところまで消費者物価指数をブレイクダウン♪

 ウェイトはそれぞれの分類への支出シェアです.例えば,食料のウェイト2626というのは平均的な家計は全支出のうち「1493/10000=14.93%」を食料(生鮮・加工食品・外食・酒など)に支出しているという意味です.

 これをみると...菅(すが)内閣の肝いりで始まった携帯電話料金の引き下げが現在に至るまで物価動向に影響していることがわかります.

 なお,教育価格の低下は高等学校等での授業料扶助拡大によるものです.消費者物価は「最終的に家計が負担した額」を「価格」ととらえるので,50万円授業料を払ったあとに自治体などから30万円補助を受けると・・・「授業料は20万円である」と記録されます.GoToトラベルによる後日割り戻しも同様に扱われます.

※授業料支援は学校に払う,家計の立て替え払い後に後日補填,納付前に自治体補助など...事務手続きが都道府県毎+私立公立それぞれで違います.消費者態度指数ではこれらの手続きにかかわらず「最終的な家計負担=教育の価格」ととらえます.

 そして食料費もさることながら,家具・家事用品の値上がりも顕著であることがわかります.家具・家事用品の値上がりって・・・なにが上昇しているんでしょ? そこで「カテゴリ:家具・家事」をもう少し細かく見てみましょう.
 ここで目立つのが家庭用耐久財の価格上昇です.また品目別(下表は上昇top10)では電球類83.7%,照明器具(電気スタンドなど)55.3%が顕著な上昇ですが...これはLEDへの切り替わりが主因なので「値段が上がった」というよりも「商品が変わった」と考えるべきでしょう.

ただし,照明関係以外でも電化製品全般,紙・パルプ関連なども値上がりが顕著であることがわかります.テッシュやトイレットペーパーは日本人がやたら執着する商品ですし...これは値上がりへの怒りが高まるのもわからなくはないですね.

 消費者物価指数のエネルギー価格は,政府の補助金事情によって大きく左右されます.むしろここ数年は補助金方針のみで決まっていると言っても過言ではありません.

*は季節商品につき参考値

 6月以降に発電各社への補助金が打ち切られると,家計支出の3.41%を占める電気代はガソリン代なみの上昇となる可能性があり,そのインパクトは計り知れない.
 この数字が出ると,政権の支持率はまた大幅に下がると思われます.補助金打ち切りの影響が発表されるのは6月下旬(東京都区部速報)と7月下旬(全国調査)....そのまえの解散は難しいでしょう.こう考えると岸田首相って自身の支持率も続投可能性も投げ打ってでも財政引き締めしたいんだなあとある意味感心してしまいます.

食料品の動向

 さておまちかね.尖閣諸島に中国海警局船が押し寄せても何の文句も言わないメディア...そのメディアが首都陥落したくらいに騒ぐのが食品の値上げです.
 過去5年間で値上がりした食品,そうでもない食品は何か!まずは数字から見てみましょう!!

*季節商品,†惣菜,前*は包括分類

いかがでしょう.魚介類と葉物野菜の上昇が顕著であることがわかります.魚類の値上がりは近海の不漁が続いているためです.このあたりは,勝川俊雄(東京海洋大)さんとの対談など参照ください.
 一方で注意を要するのは葉物野菜の動向です.葉物野菜は天候不順の影響を受けやすいです.しかし,現在の高値は天候要因だけでは説明できません.葉物野菜のもうひとつの特徴は「とにかく人手をたくさん使う」ことです.人手不足による農業作業員確保の困難が一部農作物の価格に影響し始めている可能性があります.

 一方で値下がり品orそれほど価格上昇していないのは...米・根菜・お茶ですね.ちなみに「うるち米A」とはジャポニカ種食用米・・・ようは普段日本の食卓に上る米の飯のこと.

 なお,ビール(発泡酒は含まない)の値下がりは税制改正によります.一方,輸入ワインは商品の入れ替わり...高いワインではなく,安いワインを買う人が増えた影響と思われます.同一銘柄同一ヴィンテージは確実に値上がりしていますから.

 この細目表・・・コロナ期間から似たようなデータ紹介してきましたが,とにかく米と根菜類は値段が変わらない! というわけで...みんな長芋の生姜漬でお茶漬けでも食って生き延びましょう! あと肉なら鶏肉,ソーセージあたりも優等生! 牛肉なんか食ってる上級国民を許してはいけません!

 一方で...農業・食品関連のみなさま.ここまで食品の価格が上がっている中でさえ価格が上昇しない/できない根菜・米・お茶.これらの品文については,いちどマーケティングから生産プロセスに至るすべての見直しをしないと今後もっと厳しい状態が待っている.これを認識しましょう.

とまぁたまには細かく物価見ていくのも楽しいですよね.

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