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【飯田線各駅訪問】44 為栗駅

天竜川によって造成されたダム湖の湖畔、独特な駅は無音の世界に佇んでいる。
駅への外部到達路はこの吊橋のみであるという。天竜川はホームのすぐそこまで押し寄せている。
駅の周りはダム湖と豊かな自然だけであまりにもなにもなさすぎる。

湖を臨む無音の世界

 飯田線の旧三信電気鉄道区間は、天竜川の流れに沿って急峻な渓谷を進む。それがためこの路線内には高レベルな秘境駅が少なくない。ここもそうした駅と同じように、無人度抜群で山深い場所に位置するが、ひとつ圧倒的に違う点がある。それは、この駅は開放感を感じられることだ。
 駅前の天竜川の流れも他の場所とはまるで違い、川幅がとてつもなく広がり駅のすぐ背後にまで迫っている。駅周囲の地形こそ急峻だが、この川幅の広さとのギャップになんだか違和感を覚えずにはいられない。これは駅の下流にある平岡ダムによるもので、かつて駅前にあった集落はダム湖に沈んだために斯様な不可思議な駅になってしまった。このような経歴から、「人」も「川の流れ」も この地とは無縁な言葉と化してしまい、今この駅に残っているのは“静寂”そのものだけ。こうして今日も何もない1日が過ぎてゆくのである…。

 今回私は隣の平岡駅から列車で訪れた。平岡駅を出発した列車は徐々に街から離れていき、飯田線でも有数の絶景である羽衣岬を通り抜ける。暫くしてこの駅に列車は停車した。
 列車を降りて一歩踏み出したところで愕然とした。今にも緑に飲み込まれそうな駅名標。天竜川に沿ってカーブした鉄路とホーム。全く音を立てない天竜川。… 何ひとつない山奥に開放的な自分だけの空間が広がっている。気がつけば、熊よけのために流していたクラシックに、待合室でひとり聴き入っていた。誰にも邪魔されない、自分だけの空間がそこに創造されていた…。

訪問日:
2024年03月17日

隣駅・平岡のページはこちら
https://note.com/iida_line/n/neebb671c0cb3

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