【飯田線各駅訪問】48 唐笠駅
誰もいない観光駅
車窓は天竜川の景色とトンネルが瞬く間に交互に繰り返される。そんな中やがて列車は減速し、トンネルを抜けると誰もいない駅に止まった。線路に並走してきた天竜川は川幅を広げ、微かに音をたてながら雄大な流れを見せる。付近には人家と呼べるようなものは殆どなく、駅上方の立派な橋も交通量はごく少ない。そのような「秘境駅」とも言えるほどの環境だが、なぜか妙に大きい待合室がある。
ここは主要道からは外れた唐笠という駅。駅があるのは泰阜村だが、天竜川を跨いだ対岸は下條村、隣の金野駅は飯田市、という三市町村境に所在する。駅前には天竜ライン下りの唐笠港があり、天龍峡から流れに乗ってきた観光客はこの駅より列車で天竜峡駅へと戻る。そのため観光色の強い駅であり、待合室も広い造りになっているというわけだ。しかし、近年ではこのような田舎の観光産業など廃れてきている上に、舟と列車との接続も悪くなり、がら空きであることも多くなった。とりわけ今回私が訪問したような早朝の時間帯には誰ひとりおらず、周囲には駅前の「鹿威し(ししおどし)」の音が美しく響いているだけであった。
そのような長閑な環境の中、突如として踏切の音が鳴り響くと一気に現実へと引き戻された気がした。やがてやってきた列車は車内には誰ひとりおらず、「貸切列車」に乗った私はこの駅を後にした。
訪問日:
2024年03月17日