ブックガイド「家と間取りから家族を見つめる小説」/作家・柴崎友香
この連載では、飯田橋文学会のメンバーがテーマごとに必読書をご紹介していきます。今回は、作家・柴崎友香が「家と間取りから家族を見つめる小説」をテーマに5冊オススメの本をご紹介します。
「家と間取りから家族を見つめる小説 」
自分が住むわけでもないのに間取り図を眺めるのってなんだか楽しい。部屋の配置からそこに住む人の生活、人間関係を思わず想像してしまうからかもしれません。小説の中で、家の佇まいや間取りはそこに住む人や家族の人生や関係をあらわし、ときには、そのあり方に影響を与えるスリリングな存在でもあります。(柴崎友香)
「アッシャー家の崩壊/黄金虫」ポー、小川高義(訳)
地方に陰鬱に佇む、荒涼とした屋敷。代々その屋敷を受け継いできたアッシャー家の末裔の最後の姿を見つめる。暗い運命を背負った兄妹を蝕む屋敷が、怖ろしくて美しい文章で綴られる。まさにすべてが「崩壊」する最後は圧巻。
「門」夏目漱石
友人から略奪したという結婚の経緯から宗助とお米がひっそりと暮らすのは、崖下の路地の奥、小さな家。崖の上にある裕福な家の主人と知り合ったことで、宗助の生活は揺らぐ。二つの家をつないだのが酒井抱一の屏風なのもおもしろい。
「三の隣は五号室」長嶋有
東京の片隅のあるアパートの五号室、五十年間、歴代十二人の住人の生活を、生活用品や世相の移り変わりでつないで語る。同じ間取りをどう使ったかや懐かしい道具の描写に笑ったり感心したりしながら、読後に残されるのは一人一人の存在感。人生ってこんな感じ、と思わずにはいられない。
「学校の近くの家」青木淳悟
学校の近くに住んでたら遅刻しなくていいなあ、と子供の頃に思っていたけれど、実際にすぐ近く、教室から見える場所が自分の家だったら? 描かれる小学五年生の男子の生活もとてもおもしろいのだけど、だんだん浮かび上がってくるお母さんの妙な存在感というか違和感が気になって仕方ない。ほかでは味わえない小説です。
「パノララ」柴崎友香
住人が工夫してなにか作ったり増築したりした家って、気になるんですよね。その人の考えてることが透けて見えるようで。この小説は、ちょっと変わったお父さんが自分で建てて増築し続けている家に同居することになった女性と、そこに住むちょっといびつな家族の話。家族ってなんだろう、と思いながら書きました。
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柴崎友香
1973年大阪生まれ。大阪府立大学総合科学部卒業。2000年、『きょうのできごと』でデビュー(同作は2003年に映画化)。『その街の今は』で織田作之助賞大賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、咲くやこの花賞、『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞、『春の庭』で芥川龍之介賞受賞。『ビリジアン』『わたしがいなかった街で』『週末カミング』『パノララ』、エッセイ集『よそ見津々』など著書多数。