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ブックガイド「人生に触れる5冊」/作家・平野啓一郎

この連載では、飯田橋文学会のメンバーがテーマごとに必読書をご紹介していきます。今回は、作家・平野啓一郎が「人生に触れる5冊」をテーマにオススメの本をご紹介します。


「人生に触れる5冊」

人間を知るためには、現実の生に触れるのが一番という考えもあるが、その深みや多面性、長い時間の中での変化を知るためには、本という形式の言葉に頼るより外はない。読書は他者という存在の体験である。(平野啓一郎)


「林京子全集 2 ミッシェルの口紅 上海」

林 京子(著),井上 ひさし(編集委員),河野 多惠子(編集委員),黒古 一夫(編集委員)

長崎で少女時代に被爆した体験を、文学の「記録性」の極限的な形として作品化した『祭りの場』、その人類史的な苦悩を静謐の筆致でどこまでも深く見つめ直した『長い時間をかけた人間の経験』などの諸作で知られる林京子氏。本作は、第二次大戦下の中国体験を、少女の無垢で、かつ透徹した眼差しで描いたもう一つの傑作。

https://honto.jp/netstore/pd-book_02569637.html


「マイルス・デイヴィスの真実」

小川隆夫

マイルスについて語らせるならこの人!という著者のマイルス研究の決定版。『自叙伝』がモノフォニーで語られたマイルスの人生であったなら、こちらは多数の関係者によるポリフォニーのマイルス伝。データマニアたる著者の面目躍如たる緻密な裏取りと、本人との個人的な交流によって得られた人物像とのバランスが絶妙。

https://honto.jp/ebook/pd_28151061.html


「谷崎潤一郎全集 第25巻 初期文章 談話筆記 創作ノート」

谷崎潤一郎(著)

新たに刊行中の谷崎全集の中でも、名のみ知られていて、これまで未発表だった「松の木影」等、1933年から最晩年の1965年に至る足かけ32年、計11点の創作ノートが収録された本巻は、その目玉とも言うべき貴重な内容。物語作家として語られがちな谷崎が、いかに現実に取材しつつ、作品を構想していったかがわかる。

https://honto.jp/netstore/pd-book_28007820.html 


「摘録断腸亭日乗 上」

永井 荷風(著),磯田 光一(編)

荷風は、『つゆのあとさき』は大好きだが、『墨東奇譚』となるとキザすぎてどうも好きになれないが、第二次大戦を挟んだ膨大な日記である本書は、どこを読んでも面白く、荷風文学の真骨頂ではないかと思う。妙な国粋主義的風調が見受けられる昨今、荷風の繊細で苛烈な社会風刺には溜飲が下がる。

https://honto.jp/netstore/pd-book_00479984.html


「マチネの終わりに」

平野啓一郎

物語の中心は所謂アラフォーの男女の「恋愛」だが、それだけでなく、親子愛、師弟愛、友愛、芸術への愛、弱者への愛、運命愛、・・・と、私たちが人生で経験する様々な愛の、美と悲哀、歓喜を描いた。今の世の中にほとほとウンザリしている私は、束の間の精神的な高揚感を求めて、本書を構想した。是非、ご一読を。

https://honto.jp/ebook/pd_27807785.html 


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平野啓一郎

1975年愛知県蒲郡市生。北九州市出身。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。著書は小説、『葬送』『滴り落ちる時計たちの波紋』『決壊』(芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞)『ドーン』(ドゥマゴ文学賞受賞)『かたちだけの愛』『空白を満たしなさい』『透明な迷宮』、エッセイ・対談集に『私とは何か 「個人」から「分人」へ』『「生命力」の行方~変わりゆく世界と分人主義』等がある。