MMP #3(中編)|星野概念さんと「心地よさ」について考える
いつかまた同じ場所に集まることができるようになったときのための「下ごしらえ」をしていく企画、「MONTHLY MAKING PREPARATIONS」。
第三回は、精神科医の星野概念さんをゲストにお招きしました。『器』のテーマである「メンタルヘルス」について、専門的なお話を伺いながら、「死にたみ」との向き合い方や付き合い方、わたしたちが生きていく上で大切にしたい「心地よさ」について、時間を忘れて語り合いました。
※ この座談会は、2020年7月8日に、オンライン通話にて行われました。
※ この記事は、(中編)です。
「MONTHLY MAKING PREPARATIONS」に関連する記事の売上やサポート(投げ銭)は、今年10月に予定している『器』の公演資金として、大切に使わせていただきます。
▼ 参加者
ゲスト
星野概念
いいへんじ
中島梓織
松浦みる
飯尾朋花
小澤南穂子
いいへんじのおとなりさん
水谷八也(早稲田大学文学学術院教授)
清田隆之(恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表)
出演者
石川和大(楽市楽座)
スタッフ
鈴木南音(ぺぺぺの会)
大嵜逸生
▼ 全体の目次
この記事は(中編)です。
(前編)
① 今回のゲストは星野概念さんです!
② 執筆途中の『器』を読んでみて
③ 気になること1:若年層の自殺のこと
④ 気になること2:「死にたみ」を消すこと
⑤ 気になること3:向き合い方や付き合い方
(中編)
⑥ 「死にたみ」と「自己責任論」の関係
⑦ 「筋合い」を取っ払って捉え直しをする
⑧ 現在の「私」は過去の集大成である
⑨ 変わらない/変われない「私」を肯定する
(後編)
⑩ Q:いつか親になることが不安です。
⑪ Q:どうやってゴールに向かっていくんですか?
⑫ Q:「孤独」を前向きに捉えるには?
⑬ Q:言いたいことが言えないときは?
⑭ Q:これまでの関係はどうしたらいいですか?
⑮ Q:「メンタルの強さ」って何ですか?
⑯ 「わからなさ」を大切に、「心地よさ」に向かっていこう
「死にたみ」と「自己責任論」の関係
中島
わたしと星野さんで、『器』のことから始まって、いろいろとお話をしてみたんですけれども。水谷先生と清田さんに、話を聞いていて、何か気になったことがあればお聞きしたいなと思っております。清田さんどうでしたか?
清田
はい。いま、赤ちゃんが寝ました。すごいおもしろかったです。星野さんとは、一緒に、イベントをやったり、連載もやったりしていて、特に「人の話を聞くってどういうことなんだろう」っていうテーマについて語り合ってきたんですけど、精神科医としての星野さんの話をがっつり聞くっていうのは、わりとはじめてだったので。やっぱ、星野さん、お医者さんなんだなって。なんか、いつも夜中までめっちゃ酔っ払ってる人みたいなイメージもあったので(笑)
中島
(笑)
清田
ちょっと思いつつね(笑) で、個人的に、星野さんの話を聞く中で、あーなるほどな、と思ったのは、「死にたみ」を抱えてしまった人が、実際に自傷的な行為に踏み出してしまうとか、本当に自分の命を絶ってしまうとか、そういうところに行くか行かないかっていうところで、誰かがいる、というか、クッションになってくれる存在があるかないかっていうのが、大きなポイントとしてあるんじゃないか、っていうところで。
『器』の中で、「死にたみ」と、「死にたみ」を抱えてしまった人たちと、その周りにいる人とかモノとかコトとかとの関わりを、中島さんがどう物語に織り込んでいくのかな、っていうのは、すごく興味が出た点でした。
清田
話がつながるかつながらないかわからないんですけど、ちょっと前にね、『妻が口をきいてくれません』っていうWEBで話題になった漫画があって。
夫婦の話なんだけど、ご飯作ってくれたのに感謝の言葉を述べないとか、ちょっとした失礼なことをぽろっと言うとか、そういうちょっとした夫の言動が積み重なって、妻のコップの水が溢れてしまって。それで、「口をきかない」という決断をしたんだよね。一方で、妻は、専業主婦でお金を稼げないし子供も養えないから、結婚生活は維持しないといけなくて。結婚生活は維持しつつ、夫とのコミュニケーションは最低限に抑える、みたいな。最初は、数日間、数週間、数カ月間みたいな感じだったんだけど、たしかね、五年? とにかくもう何年単位で口をきいてないんだよね。そういうところまで描かれていて、でも、夫はまったく気づかなくて。
読んでる人からすると、だんだん妻の視点なんかも入ってくるから、こういう理由があって口をきいていないっていうのは見えてくるんだけど、それでも、夫はぜんぜん気づいていないと。それどころか、ちょっとした被害者意識を募らせてて、なんで俺はここまで、歩み寄ってんのに、へりくだってんのに、あいつは俺を無視し続けるんだ、もう、腹が立ってきた、みたいな。で、読む人は、夫の鈍感さとか無自覚さとかに、うわーってなる、みたいな。
僕も、『よかれと思ってやったのに』っていう本とか、最近、『さよなら、俺たち』っていう本を出して、男性の無知や無自覚さについて、ずっと考えてきたところがあったので、それともすごくオーバーラップする話だなと思って、すごく興味深く読んだんだよね。
でね、ここからが本題なんだけど。男性側が、女性側の苦労とか苦しみとかそういうものにぜんぜん気づかずに、小さく小さく絶望されていって、やがて取り返しのつかないってところまで至って、妻の様子がおかしいってなってから焦りだして、謝ったり、歩み寄ったり、これ見よがしに家事をし始めたりするんだけど、結局、その溝は埋まらない。結局、「夫の自業自得だろう」と。そういう気持ちについなってしまう。だけれど、五年、、、ほんとに、五年とか六年とか、口をきいていない状態が続いていたら、夫にとっても、家が安心できる居場所ではなくなっていくし、さっき星野さんが言っていたように、「家に帰る」っていうことを想起した瞬間に、嫌だな、とか、帰りたくないな、とか、そういう気持ちになっている、とかね。だから、だんだん、寄り道をして帰りが遅くなるとか、帰らなくなるとか、そういうことも描かれていて。それもまた、そんなことすればするほど、家族との溝は深まっていくのに、バカな夫だなって思うんだけどね。一方で、家族にそんなに無視されてたら、その男性のメンタルもめちゃくちゃ傷ついていくっていうのは、間違いなくあると思うんですよ。
夫の無知さや無自覚さや鈍感さが、原因にあるとは思うんだけど、でも、現実問題として、理由はどうであれ、無視され続けてる状態、口をきけない状態、家族とディスコミュニケーションが続いている状態が、続いてるってことは、その男性のメンタルに対しても相当ダメージを与えてるだろうと。そう考えたときに、「自己責任論」みたいな問題が、頭をよぎるわけですよ。
夫が抱えてる、口をきいてもらえないっていう苦しみは、リアルなものだろうし、それが発展していけば、「死にたみ」みたいなものも生じかねないってなったときに、「この状況をつくりだしたのはあなたですよね?」っていう気持ちと、「実際、苦しいよな」っていう気持ちと、どちらもあって。この部分の切り分けが、できればね。これはこれ、それはそれ、って、切り分けができればいいんだけれど、苦しいだろうな、って思う一方で、お前が招いたドグマあるぞ、って、自己責任論的に見ちゃう自分もいて。整理がつかなくなっちゃったんですよね。
星野さんと中島さんの話を聞きながら、その直近の漫画を読んだときの経験が蘇ったっていうのがあって。現実の生々しい痛みっていう、本人を苦しめる「死にたみ」と、その背景になってしまった出来事が、切り分けられなくなっちゃう瞬間があって、よくわかんなくなってくるというか。こういう問題については、どう感じるのかなと思って。どうでしょうか?
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