救急隊に殺されそうになった話
2020年、俺は新卒で就職し佐賀県に配属され、初の一人暮らしをすることになった。
俺は幼少期より親の仕事の都合で転勤を繰り返しており、色々な土地で暮らした経験があったが、佐賀県はダントツで田舎やった。家の付近には墓地と田んぼと畑しかなく、帰宅すると玄関前に30cm超のスッポンが居たり、戸締りをしっかりしているのにも関わらず室内にカエルがいたりした。
ある日、鹿児島県へ出張へ行った。2〜3日かなりハードな現場で作業を手伝い、疲労困憊。最終日に全員で打ち上げをした。鹿児島ってこともあり鶏が美味しい店で行われた。「お前鳥刺し食べたことあるか?食え食え!」と上司に言われ、鳥刺しやらレバ刺しをたくさん食べた。はっきり言って味はあまり好みでなかった。
佐賀に帰り、週末遊んでいるとどうも腹の調子が悪い。動物園に行っていたのだが、園のトイレから長時間出られなくなった。出すものを出してマシになるかと思いきや、全くマシにならず、なんなら時間が経つにつれ腹痛は増した。その後運転して帰ったが、意識が朦朧として記憶がない。
次の日の仕事に備え自宅で横になっていたが、腹痛はどんどん酷くなり、耐えられなくなった。更に吐き気も催した。立てなくなり、歩けなくなった。匍匐前進でベッドとトイレを何度も往復した。熱を測ったら40度あった。一人暮らしやし、地元じゃないから頼れる人は誰もおらんし、このままやと流石にヤバいと思い、人生で初めて、自分で自分の救急車を呼んだ。決死の覚悟やった。
10分足らずで救急車は到着した。担架に乗せられ救急車へと運ばれた。発車し軽く問診?みたいな受け答えをしていたと思ったその時、衝撃音と共に俺の体は地面に叩きつけられた。40度の熱で意識が朦朧とする中、何が起きたか分からなかった。どうやら救急車が事故って田んぼに落ちたようだ。救急隊員は俺の心配をする余裕もなく打ちつけた自分の頭や膝を押さえて「痛ってぇぇぇえ……」と言っていた。5分くらい経ってから俺に「大丈夫ですか……?」と言ってきた。大丈夫なわけがない。まずそもそも大丈夫じゃないから救急車を呼んだのだ。ふざけるなと思った。死ぬってマジで。
今はその田んぼがあった場所には家が建っているが、座標を載せておこう。
結局その救急車が復旧することはなく、次の救急車を待つことになった。「15分くらいかかります」とのこと。死ぬってマジで。
その後到着した病院で朝まで点滴を打つも全く良くならない。入院させてもらえるかと思いきや、自力で帰れと言われた。死ぬってマジで!!
結局タクシーで帰宅したが、体調は全然戻らない。買い物に行けないレベルの体調なので飲み物も食べ物もほとんどなく、ひたすら水道水を飲みまくった。死ぬよ本当に。
次の日、住んでいた市の消防署長がカステラの詰め合わせを持って謝罪に来た。俺は人生で初めて還暦くらいの人の本気の謝罪を見た。
時間の経過と共に多少体調はマシになっていった。やっと食事ができそうやけど、買い物にはいけそうにない、そんな時にあのカステラを少しずつ食べて凌いだ。
結局、体調が完全に戻り出社するまでには1週間程かかった。後から冷静になって考えてみるとカステラの詰め合わせ程度で済まされるような話では絶対になかった。
病み上がり出社1日目、この1週間で起こったことを上司に説明した。「お前な。7〜8人で鳥刺し食ったやろ?それでお前だけが食中毒になってるのは、ちょっと気合いが足りてないんじゃないんか。」怒られたのだ。信じられなかった。信じられなさすぎて、ホンマに面白かった。流石にありえなさすぎる笑
鶏刺しは全然衛生面の問題をクリアしていないし、食べない方が良い。もし食べるのであれば、高熱や腹痛、吐き気に苦しみ、救急車が事故って死にかけ、やっとの思いで仕事に行ったら上司に理不尽にキレられる覚悟を持った方が良いだろう。