
生命の記憶(いのちのきおく)
生命の記憶
(いのちのきおく)

この文章は以前プラネタリウム番組で制作したシナリオです。
生命の歴史を23分の短い時間で再現しようという試み。
声優は当時売り出し始めた #梶裕貴 さんと、シンガーソングライターの #谷山浩子 さん 楽曲も谷山浩子さんです。
~Born in The Space~
2007年 プラネタリウム番組 完成稿
投影時間/約24分
対象/(一般)
制作/㈱イーハトーヴ
脚本・演出/㈱イーハトーヴ
制作協力 株式会社ヤマハミュージックコミュニケーションズ
録音 株式会社エス・シー・アライアンスメディアエンターテイメント社
楽曲 谷山浩子
登場人物
・少年(梶 裕貴)
・光の存在(谷山浩子)
<プロローグ>
■M1(Glen Goold Aria)IN
■ウィリアム・ブレイク『無心のまえぶれ』の朗読
一粒の砂に世界を
一輪の野の花に天国を見、
つかみなさい。君の手のひらに無限を
そして、ひとときの中に永遠を。
ウィリアム・ブレイク 18世紀英国
M1(大きくなる)
■タイトル
『生命の記憶』(いのちのきおく)
~Born in The Space~
■M1 FO
<Scene1: 生命の疑問(悩める人)>
■都会に佇む少年(※少年の視線 昼の風景)
■M2メゾピアノより『ふたり』
少年
『僕は、どうして生まれたんだろう?』
『僕は、なぜ、ここにいるんだろう?』
何も不自由のない、日々の暮らし。
自分たちが生きているってことすら、実感できなくなってしまったような、うつろな世界。
それでも、僕たちは生きている……
でも、…何か忘れてはいないだろうか?
僕は、今、確かに生きている。…だけど……
<Scene2: 生命の探求(想いをもった人)>
■都会に佇む少年
■(声のみ※少年の視線の都会夕景)
■PAN街並み
■街並みの夕日へ
※ここよりの映像展開は少年の視線
■少年
君は、いつか星空を見上げた日を覚えているかい? あの遠い空の向こうに何があるのかって…。僕は…よく覚えているよ。
※徐々に星が見えてくる※街中で少ない星
少年その時、僕は思ったんだ。あの星を見ている僕って、何なんだろう?
■静かな海辺へ※徐々に夜の浜辺へ OL
■人里はなれた海辺の美しい星空
少年長い歴史の中、多くの人が僕と同じように宇宙を眺め、憧れたことだろう。
少年この壮大な宇宙の中で、人はとてもちっぽけな存在……。
人は、何のために生まれ、生きているのか?…誰も、僕に教えてはくれなかった…。
誰も……
■M2FO
■どこからか光が現れる CGVTR
光の精
あなたの手を見てごらん。
M3メゾピアノより『遺跡散歩』
何が見える?
大切な何かを優しくつつみこんだり、
悲しんでいる人の手を握ってあげたりできる。
そんな小さな小さなあなたの手。
小さいけれど、手は生命を運ぶことも、
乾いた心をいやすこともできるの。
君の心をつつみこむこともできる。
その手は、地球の誕生から今につながっている生命のあかし。
たった一つの細胞から始まった生命。
そう。一粒の光から生まれた、宇宙のようにね……
■M3FO
<Scene3: 生命の兆し(気づいた人)>
■海の音が聞こえる夜の浜辺(パノラマ)
■SE 波の音~水中音
■光の精
水の中で、生命は生まれたわ。
■M4メゾピアノより『窓の外を誰かが歩いている』
最初の生命の兆しが訪れるまで、それは、長い長い時間がかかったの。
気の遠くなるような、長い時間…。
原始の海は、生命の源が、すべて溶けあっていた…
かつて、宇宙の中で一緒につくられた仲間たちが、ここで再会したの。
海の中でね。
そこには、ある法則があった。それに従って集まったものたちは、ついに、自分の複製をつくり始めた。
次の世代に、生命を紡ぐすべを生み出したの。
■映像:有機分子の構造イラストレーションデジスターにて
■映像:アミノ酸へ
■映像:分子がRNAへ変化~DNAへ
■映像:水中の泡から細胞膜へ ※自己複製能力の獲得
■映像:原始生命の誕生
この間、約10億年…。
たったこれだけの変化に、10億年もの、途方もない時間が費やされたの。
最初は、地球の息吹。水と空気がつくる現象。
そう、泡。
外と内、内と外を分け、区別するもの。
水の中の泡って、丸いでしょう。
集まったものたちは、水の中で泡と一緒に自分のかたちを丸めて膜を張った。外側は水とつながり、反対に、内側は水に触れないようにね。
このかたちを、生命はうまく利用したの。
その同じものをつくり続ける。これが永遠に感じられる長い時間、繰り返されるの。
自然は同じものを再現する……
それが、本当のはじまり。
生命は、次に、進化という方法を取り入れだした。
自分と同じ生命を育みながら、少しずつ、本当に少しずつ、いろいろなかたちを生み出したの。
その多くは、生き残ることができなかったけれど、それは無駄ではなかった。
次の世代に、かたちを変えて残っていったわ。
生命は、より進んだかたちを求めたの……
■M4FO
そんなある日、
■M5メゾピアノより『Cotton Color』
海というゆりかごから、飛び出そうとする仲間が生まれたわ。
■少年
それが、僕たちの遠いご先祖なんだね。
■光の精
けがをした時、血が出るでしょう。
血の成分は、生命が海で誕生したことを証明しているの。
■少年
しょっぱい、ね。
光の精
血は、原始の海そのもの…
生命はね。生きている地球のあらわれ。
生きている地球の一部として、
生命は誕生したの。
■M5FO
■M6『海の時間』(静かにスタート)
大きな流れは、今も続いているわ。君たちのからだの中でね。でも、流れが大きすぎて、誰も気づかない…。
少年時々、僕は思うんだ。本当は、僕たちは『生命』という、とてつもないものを運ぶ船なんじゃないかって。
■光の精
それは、生命(せいめい)というシステムそのもの…
その流れの中で生きているのが、私たち生命体。
宇宙の歴史、地球の歴史を、からだの中にすべて持っている。
生命と宇宙は、区別ができないもの…
■少年
生命って…流れ?
■光の精
そう、大きな流れ。生まれて、死んで…。
そんな一瞬を、永遠に繰り返している。
だからね。生命は、君だけのものじゃないのよ…
宇宙全体につながっているの。
■M6『海の時間』(大きくなる)♪時を越えて~
※場面転換
<Scene4: 生命の深淵
(宇宙と一つになった人)>
■星空+満月 パノラマ:夜の海辺
■M6『海の時間』♪3.ずっと君と(小さくなる)
■光の精
幾千、幾万、幾億の生命の源が、大きな大きな海の中に広がっていったように、今、生命が海の中に……
サンゴたちは生命を紡ぐため、いっせいに卵を海の中に送り出している…
■珊瑚の産卵VTR
■デジスターによる全天の海
■デジスターによる全天の海から星空へ
■CGビッグバン~恒星の誕生
■少年
一つ一つが生きている。
ほんとうに、星のようだね。
■ゆっくり場面転換
宇宙なの? ここは。
■光の精
そう。 宇宙。
私たち自身も、宇宙。
生命が誕生して、はじめて宇宙は、目や耳を持ったの。
宇宙はね。きっと、自分の姿を知りたかったんじゃないのかしら…。
■かすかに遠く輝く、星のまたたき
少年
ぼくたち生命って、宇宙が姿を変えたものなの?
光の精
それは、宇宙の誕生が教えてくれるわ。
M6FO
■暗転
■ビッグバン映像展開
M7そっくりハウスより『誕生』
光の精
宇宙が誕生した時、すべては溶けあってひとつだった。
そのひとつの存在が、宇宙すべて。
無限に明るい、たった1つの点。
ひとつだった時は、短かった。
そのひとつは、ある日突然、爆発的に広がりだしたの。
それから徐々に分かれていった…
溶けあっていた時、いろいろな試みが行われたわ。
最初の物質をつくるために…
そして、できたのが原子と呼ばれるもの。
■M7FO
■※プラズマ状態から水素原子CG
初めて、宇宙はひとつの存在ではなくなった。
離ればなれになったの。
■M8メゾピアノより『雨上がりの天使』
その原子は、重力によって、もう一度仲間を集めたわ。
重力は、仲間を集める見えない力。
すべてを支配している、宇宙の法則。
■少年
そんなに大切な力?
■光の精
その力がないと、宇宙はバラバラのままだったわ。星も丸くはならなかった。
重力があったから、星は輝き、生命は誕生したの。
そして集まった仲間たちは、大きく変化した。
仲間たちは、その中心で再び溶けあって、別の物質に変化したの。
これが、最初の星の誕生。
ようやく、宇宙に光が灯ったの。
宇宙のいたるところで、星が誕生したわ。
宇宙が光につつまれたのよ。
■M8FO
■少年
きれいだね
■M9メゾピアノより『クルル・カリル』
■光の精
誕生があれば、死もあるわ。
宇宙では、誕生と死は同じ意味を持つの。
星が生きている時に生み出す物質。そして、死ぬ時に生み出す物質。
これがなければ、私たちのからだもできなかったの。
私たちのからだすべてが、かつて、宇宙で輝いていた星の中でつくられた。
星が死んで、宇宙に散らばっていった仲間たち…
これが私たち、生命の源…
星が生まれ、死に、
生命が生まれ、死ぬ。
同じなのよ。
すべては、生きている。
■M9FO
■ZoomUpする散光星雲
■その中で生まれる、生命の源
■少年
137億年間、原子は旅してきた。
この長い時間と広い空間の中で、生命の素はつくられたんだね。
星のひとしづく。水のひとしづく。命のひとしづく。
僕たちも、ひとしづくの生命のあらわれ。
たったひとつの光の粒から始まった、この宇宙。
星が生まれ、そして、その星に生まれた一粒の細胞から『生命』は誕生した。
それは、今も続いているんだ。
M10『学びの雨』(静かにスタート)
■少年
これが、『生命の記憶』?…
<エピローグ>
■光の精
『なぜ、私は生きているの』。
この答えを語ることはできなくても、
感じることはできる。
結論なんて無い。
それが、科学の限界…。
この限界を超えたい。
そんな想いで、人類は進化してきたのよ。
そして…
■M10『学びの雨』(大きくなる)
♪何もない荒れ地にも 花は咲くだろう
一粒の種がここにあるかぎり(再び小さくなる)
■少年
今、この星空の、この宇宙の中に、みんな生きている。同じ時間、空間の中…。
─137億年の中での出会い─
今、ここでしかできないことや、
会えない人たちがいる…。
その、すばらしい奇跡。
■M10『学びの雨』(再び大きくなる)
♪涙と諍いが織りなす 人の歴史を
色あせた一冊の本
羽ばたき飛ぶ わたしの翼
乾いた生命にしみこむような
学びの雨 わたしは生きる
広い宇宙の中の 塵のひとひらでも
まばたきほどの 短い時間でも
わたしは生きてる わたしの場所で
支えながら 支えられながら
いつか会えるだろうか はるか遠い国の
どこかで生きている まだ見ぬ明日の友達
■全天の星空から夜明けを迎える
END
.