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もうひとつのルビコン川    紀元前48年7月 デュラッキラム包囲戦

「なに?カエサルが負けた?」
誰もが耳を疑った。
あのカエサル軍が、ローマ元老院軍敗れたと言うのだ。
ポンペイウスは疑った。

これは罠ではないかと。

副審のラビエヌスも同じ思いだった。
ただ彼のことであった。事態の真相を突き止めるために斥候を放っていた。

斥候の報告によればどうやらカエサル敗退は事実らしい。
このことの顛末は以下のようであった。

弱小とはいえローマ元老院軍はそこそこの軍勢でもあった。また防衛戦と言うこともあり、戦いには必要十分な兵力、武器を持ち、それに伴う相応の戦力を発揮した。

それに対してカエサル軍は、ベテランの軍団兵を温存し、新鋭の勢力を前面に出したいわば予行演習のような面持ちで戦いに挑んだ。

結果は言わずもがな、カエサル軍の敗退である。
カエサルとしては元老院軍ということもあり、自軍兵力を温存しつつ、勝ちを奪う目論見だった。

しかしながら、カエサルの実質的副将をつとめるラビエヌスがいないと言うことが、カエサルの予想以上に大きく響いたのであった。

戦術レベルであれば、武勇の将アントニウス、知将デキウス・ブルータス、またがりやから朝にしたベテランの軍団兵たち、戦力的には事欠かない面々である。

しかしながら、カエサルの思惑を理解しそれを全体像としてまとめ上げる力が欠けていた。
これがラビエヌスをしてカエサルの代理人と言わしめた所以である。

カエサルは頭を抱えていた。
軍団の再編成もさることながら、彼が見込んでいた若者の醜態を目のあたりにし、今後の扱いをどうすべきか悩んでいた。

当面は前線に副将格としてアントニウスを配置し、脇にデキウス・ブルータスを参謀格したベテランの100人隊長たちを中心とした幕僚を配置し、前線の軍団を支援する体制とした。

この辺の決断及び判断はさすが当代きっての英雄ユリウス・カエサルである。

しかし悩み事の大半はもう一つのことに費やされていた。

言わずもがなラビエヌスの去就である。
次の戦いでは彼の去就が勝敗を左右する、否確実にするための重要な要素である事は誰もが知るところである。

デキウス・ブルータスも悩みの大半は、ラビエヌスに送り込んだガリア人からの情報がない事だ。
軍事的な情報は得ているのだか…


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