創作童話『魔女は、ただいま勉強中!』
こんにちは。はじめまして。マジョールです。変わった名前でしょ。実は私、魔女の子どもなんです。信じてもらえないかもしれないけれど、ほんとです。
いままで魔女の国に住んでいたんですけど、一人前の魔女になるために、人間の世界にお勉強に来たんです。
人間は、魔法も使えないのに、幸せそうに暮らしているから、その方法をお勉強したいなと思ったんです。
ある日、空から子どもたちの様子を見ていたんです。校庭でドッジボールをしたり、おにごっこをしたり、花だんにお水をあげたり、とても楽しそうでした。
私は魔女だから、ボールをよけるのも簡単だし、空を飛べるから、おにをつかまえるのも早いし、お花に水がいるなら、雨を降らせることもできます。何だって、できちゃいます。
でも、みんなみたいに楽しくはありません。だから、楽しみ方を教えてもらおうと思いました。
私は、空き地に白い小さな家をつくりました。人間の世界の本を見て、それをマネしたんです。もちろん、魔法で。こんなことは簡単です。
学校にも通うことになりました。これが大変なんです。だって、歩いて行くんですよ。考えられない。いつもだったら、鳥にのせてもらったり、マントで飛んだり、ちょうちょに変身したりして、どこへでも行けるのに。歩くのは、とても時間がかかって、めんどうです。
学校で仲よくなったお友だちが、毎朝迎えに来てくれるようになり、いっしょに行きます。先生のことやいじめっこのことなんかを、ぺちゃくちゃおしゃべりしながら歩きます。
人間の女の子って、うわさ話がほんとに好きなんですよ。なんて言いながら、私もだんだん、そんな話が楽しくなってきました。
お友だちのひとりは、ときどき、道ばたに咲いている小さな小さな花を見つけては、何ていう名前の花だろうと、じっくりながめたりしています。よ〜く見ると、透き通るようにきれいな色で、とてもかわいい花だったりします。そんな時は、私も何か得をした気分になります。
草がいっぱい生えた空き地に立ち寄って、虫探しをすることもあります。
てんとう虫を見つけた時です。もうひとりのお友だちから、てんとう虫にはいろんな種類がいることを聞いて、びっくりしました。だって、どれもいっしょだと思っていたのに、黒くて丸い模様が7つあるものや、赤い点がいっぱいあるものがいるって言うんですもの。
カマキリの時だって、メスのカマキリがオスのカマキリを食べてしまうと言うんです。ある日、それを見た時は信じられませんでした。
学校に着くまでに、いろんなことを勉強します。どこへ行くにも空を飛んでいた頃には、こんなことには気づきませんでした。
あっちこっち寄り道するので、ときどき遅刻しそうになって、あわてて走り出すこともあります。
授業の時にも、いろんなことを発見します。そろばんなんていう、古い計算の道具を使って、足し算をするんです。
私たち魔女は、物を買うこともないので、計算なんてしません。どうしても必要な時は、計算機に魔法をかけて、勝手に計算させています。
なんて面倒なことをするんだろうと思いました。私は、もちろん魔法を使いましたが、みんなはいっしょうけんめいにパチパチしています。
先生が、わかった人いますか?と聞くと、大きな声でハイと言って、手をあげています。答えが違っていると、くやしそうな、かなしいような顔をします。
答えがあっていて、先生にほめられると、うれしそうに笑って、みんなから拍手をもらうのです。まるでヒーローのようです。その顔がほんとにうれしそうでニコニコしているから、私までうれしい気分になってしまいます。何だか不思議です。
人間て、いろんなことに感動して、よろこぶんだなと思いました。私たち魔女は、何だってできるから、ほんとにうれしいことなんて、めったにありません。そんなことに気がつきました。
人間は不便だけど、楽しいことがいっぱいあります。
私もこれからは、ドッジボールを魔法でよけないようにします。おにごっこだって、飛ばずに自分の足で走ります。花だんにも、水道からくんで来たお水をあげます。
何だか楽しそうだから、私はしばらく魔法を使わないで、この世界で暮らしてみようと思います。
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![佐藤きよあき](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/43549712/profile_007d3f84f838a2714fff85d43e73e6d8.jpg?width=600&crop=1:1,smart)