日本人の“もったいない”精神は、見せ掛けなのか?
加工食品業界の商習慣「3分の1ルール」を見直す動きが広がっている。メーカー・卸問屋は、「製造から賞味期限までの最初の3分の1の期間内で、小売店に納品しなければならない」という、長年の商習慣がある。残りの3分の2を販売期間としているが、その半分は返品や処分の期間となるので、販売できる期間は実質全体の3分の1しかない。
たとえば、6ヵ月の賞味期限があれば、最初の2ヵ月以内に納品し、次の2ヵ月だけ販売して、残り2ヵ月が返品・処分の期間となる。
今回の見直しは、納品期限の延長である。というのも、この期間を過ぎると、期限まで3分の2が残っているにも関わらず、商品を処分してしまわなければならないからである。あまりにも無駄で、あまりにももったいない。一部、ディスカウントショップに出荷するものもあるが、ほとんどが廃棄される。食べられるものが捨てられるのである。
まだまだ飢餓で苦しんでいる国があるというのに。倫理的にもやってはいけないことである。これを改善するための見直しだが、問題はそこだけではない。
返品・処分期間となる最後の3分の1は、長過ぎるのではないか。もっとギリギリまで販売すれば良いのでは。
ところが、飽食時代の消費者が、それを許さないのである。ほとんどの人が、棚の奥から商品を取り出す。常に新しいものを欲しがるのである。賞味期限の近いものには、手を出さない。当日食べるものであっても、賞味期限の長いものを買う。
こうした消費者に気に入られるためには、もったいないことはわかっていても、「3分の1ルール」を守らなければならなかったのである。
よく“もったいない”話として登場するのが、カタチの悪い、規格外の野菜。消費者がまっすぐなキュウリを欲しがるから、農家は作り方を工夫し、スーパーは曲がったキュウリを扱わなかったりする。
最近になって、産直市場の人気が高まり、規格外野菜にも注目が集まっているが、全体から見るとごくわずかでしかない。これもすべて、消費者が悪い。と、農家やスーパーの人は思うかもしれないが、それをそのまま受け入れた側にも責任はある。
これと同じで、消費者のわがままを聞き入れ、「3分の1ルール」を作った加工食品業界にも問題はある。
いまやっと、見直しの機運が高まっているのだが、小売店からは不安の声も聞こえる。新しい商品でなければ、客が買わなくなって、さらに処分する商品が増えるのではないか、と。
確かに、その不安は理解できる。消費者がそう簡単に変わるはずはない。ルールを変えるだけでは不十分で、ここは、消費者の意識改革を最優先課題としなければならない。国をあげて取り組み、マスコミを巻き込み、大々的にPRする必要がある。
“もったいない”という言葉と精神が世界中に広まりつつあるにも関わらず、日本人は何も変わっていない。不況で生活が苦しくなったために節約はするようになったが、食品の廃棄量は変わらない。
食品関連事業者と一般家庭を合わせた食品廃棄量は、年間500〜800万トンにもなっている。これは、日本における米の年間収穫量に匹敵し、世界の食料援助量の約2倍である。これは、許されることではない。
“もったいない”発祥の地である日本が、もっと“もったいない”を実践しなければならない。
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