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旅のモンタージュ 8 〜東京
千代田区:丸の内
先日、所用で東京へ行った。ついでに、念願だったサンシャイン水族館の空飛ぶ(ように見える)ペンギンを見ることもできた。帰る日、羽田に向かう前に、丸の内の丸善に寄る。丸の内オアゾの1階から4階までを占めるこの書店は、本当に広い。店に入った途端、まず平台に積まれた本の種類の多さと量に圧倒されるのだ。昨今は、個性的な小規模の本屋も取り沙汰されて、それも、とても魅力的だ。ただ、こちらは置かれている絶対量が違って、普段、自分が読まない類の本にも手を伸ばしては台に戻しつつ(棚差しの本まで目配る余裕は時間的にもない)、次第に中へ入りこみ、またエスカレーターで階を上がっていくときのワクワク感も、大規模書店ならでは。
以前、千葉に住んでいた時には、時折、東京に出かけた。この丸善の一室で大江健三郎の朗読会に、あるいは池袋の書店で開かれた彼のワークショップに参加した。若かりし私を文学の世界へ導いてくれ、私淑していた作家の話を直接聞けるのは、大きな喜びだった。ちょっとしたユーモアを話の端々や表情や声の調子に読み取ることも、同じ空間にいてこそ。大江は、私にとって大きな先生だった。巨星墜つ、あのニュースからはや二年が経つ。
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神保町の東京堂書店で名物の『軍艦』(一階のレジ前にある新刊コーナー:棚とそれを取り囲む平台が軍艦に見える)ものぞきたかったが、今回は時間がなかった。本はといえば、今はネットで買ったり、図書館で借りることも多くなったが、やはり、書店をぶらぶらしながら書籍の傾向で今の時代を知り、売れ筋を探り、またそれとは関係ない店の推しや催し物を楽しむのは幸せな時間だ。この日、買ったのは五冊。
・『俺の文章修行』(町田康:株式会社幻冬社)
・『ある子供』(トーマス・ベルンハルト:株式会社松籟社)
・『世界とつながる日本文学』(柴田元幸 編:株式会社早稲田大学出版部)
・『美学入門』(中井正一:中央公論新社)
・『熊を殺すと雨が降る』(遠藤ケイ:株式会社筑摩書房)
住んでいるところで買えるのだが、本も出合いもの。見つけた時の直感に従って手に入れておかなければ。一時間ほどの逍遥を終えた私は、袋の重みを感じつつ併設のカフェに入り、レモネードを注文した。