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二十数年振りに母と弟に会いに行く


(1)


「だからさ、記憶が混濁するんだよ!」
電話口で声を荒げて事情を説明するのは井苅和斗志である。
井苅が言うには最近夢に登場する少年が息子なのか弟なのか途中からわからなくなる事、成長するにつれ高校生になった息子を間違えて弟の名前で呼びそうになる事。
『はあ?お前なに言ってんだ?』
話を聞かされている井苅の父親は困惑すると共に呆れ気味である。
井苅の両親が離婚してから二十数年が経っている。
当時なかなかの騒動だったらしいが、井苅はその時既に独立して東京で暮らしていた。
両親から代わる代わる掛かってくる電話をふんふんと薄ら笑いを浮かべながら聞き流していた。
家族の崩壊は井苅にとって好ましい事だった。
ようやくこの疎ましい関係から解放される。
弟も家を出たとの電話が父親から掛かって着た時は得も言われぬ安堵感があった。
「最後に会ったのが祖父さんの葬式だったんだよ。だから弟が若い頃の記憶しか無いんだよ」
『だから何だって言うんだ』
「だからさ、記憶を上書きしなきゃならないんだよ。中年になった弟と会って、息子と弟とは別人だって脳に認識させなきゃ駄目なんだ」
『お前あたまおかしいんじゃないか?』
確かに一般的な価値観家族観からはかけ離れているかも知れない。
家族との長年の別離など井苅にとっては問題ではない。本当は父親との関係も面倒だったが自分の私物がまだ実家にある事、自分の息子に「孫」としての体験をさせてあげたかった事、そして父親に対する少しばかりの義理の意識もあった。
重要なのは今後自分が年齢を重ねるにつれ弟と息子の記憶が曖昧になり、ついには目の前にいる息子を弟と認識してしまう…そんな痴呆老人にはなりたく無いとの不安が問題だった。
『でもどうやって探すんだ?もう前に住んでた借家には住んでなかったぞ』
別離したとは言え自分の息子である。井苅の父親は時折母親と暮らす弟の住居をこっそりと見に行っていたらしい。
「住所を調べる方法がいくつかあるんだよ、それで頼みたいことがあってさあ」
井苅が提案したのは父親の戸籍謄本の附票から住所を調べる方法である。
戸籍謄本の附票とは本籍地の市区町村において戸籍の原本と共に保管されている書類のことである。本人のみならず入籍した家族の現在までの住所がそこには記載されているのだ。
「つまりさ、その附票に親父の子供…つまり弟の住所が記載されてるわけよ。だから遺産相続がどうとか適当な理由を言って役所で取ってきて欲しいんだよ」
『それ貰えばわかるのか?』
「ああ。取り合えず除籍してなければ現住所までが記載されてるらしい。
だからちょっと役所に行ってきて…」
『でもワシの本籍A県だぞ?』
「はあ?B県に移してないの?」
『んなもん別に移さなくてもいいだろ。理由がない』
何を言っているのだと井苅は憤りを感じる。
もう故郷を離れて家まで建てて六十年以上もあの街に住んでいると言うのに本籍地を移していないとは。
思い出してみれば井苅の本籍地は結婚して除籍するまでA県だった。
書類等に本籍地を記入する際はB県民にも関わらずA県と書き続けることに違和感があった。
『まあとりあえずパスポートの更新しなきゃならんから近日中に役所に行く予定だったんだ。その附票?とやらに関して訊いてきてやる』
これは面倒な事になりそうだぞと思いつつ井苅は「お願いします」と珍しく父親に敬語を使う。
『それにしてもお前らどうなってるんだ、兄弟だろう?普通は連絡取り合ったりするだろうに…』
全く理解できないと言った感じでごちながら父親は電話を切った。

父親からの返事は思いの外早かった。
翌日電話が掛かってきたのだ。
『あのなあ、この三月から遠隔地でも戸籍謄本が取れるようになったんだよ』
これは朗報だ。今までは本籍地の親族にわざわざ役所に行ってもらったり、役所で郵送手続きをしたりで取り寄せるまでに時間が掛かっていたからだ。
「それじゃあ…」
と言いかけた井苅の言葉を遮り父親は続ける。
『でも附票?はここじゃ貰えなくて本籍地じゃないと駄目なんだとさ』
なんと言うことだ。それじゃあわざわざ本籍地に赴かねばならないと言うのか。
『それでな、その附票は取り寄せる事が出来るそうだ。そこで往復の封筒を本籍地の役所に送れば一週間程度で貰えるらしいんだ』。

その後一週間経ち、十日経ち、父親からの連絡は来なかった。
焦れた井苅は父親に何度か電話をしたが答えは決まって『まだ着てないぞ』。
いらいらした毎日を過ごし二週間程経ったある日、井苅の電話に父親からの着信があった。
普段はしばらく着信画面の電話番号を眺めて出るか出まいか逡巡する井苅だったがこの時ばかりはワンコールで電話を取った。
『附票が届いたぞ』。                  
                            (令和6.04.09)


(2)


ようやく待ちに待った連絡である。
面倒くさそうな半ば呆れた様な父親の声からは、それが朗報なのかあるいはそうで無いのかは判断できない。
「そ、それで…?」
『ああ、判ったよ。あのなあ、あの…』
「ちょっと待って、今メモ取るから」
井苅はちょうどその時パソコンで作業をしていた。
大急ぎでグーグルマップを開いてからペンとメモ用紙を手元に手繰り寄せる。
「いいよ、言って」
『えーと、B市C 町の✕✕の✕✕、✕✕✕マンションの✕✕✕号室だ』
C町か、C町って確か聞いた事がある。
井苅が故郷を離れてからもう四半世紀近く経っているので町名を言われてもすぐには思い出すことが出来ない。
それを悟ったかの様に父親が続けて言う。
『ほら、あそこだよ、あそこ。あれだ、✕✕小学校前通ってB駅に行くバス通りあるだろ?それで、コンビニがあって、裏道を通ると✕✕スーパーに続く道があってだな、そこに昔っから大きめのマンションあるだろ?』
父親の説明を聞いてもその場所が判然としない。
『まさかこんな近くに住んでるとは思わなかったなあ、ここ築何年だ、結構大きい建物だけど古いから…』
父親の言葉を半ば聞き流しながら井苅はメモした地名をグーグルマップに入力する。表示されたのは井苅もよく知る地区にある十二階建てでコの字型のマンションだった。一階には商店が入居し周囲と中央には駐車場が設けてある。世帯数も割と多い部類に入る。
「ここかあ…あのD 町バス停前の…」
『そうだ、そこだよ。そこになあ、そこに附票の記載だと五年前に引っ越してるらしいんだな』
その場所は井苅の実家からおよそ三キロメートル程で自動車移動がメインの地方都市では至近と言っていい場所だ。
五年前から住んでいると言う事は、年に一度は実家に妻子を伴って遊びに行っていた井苅も何度かそのマンションの前を通っていたことになる。
『いやあ、ワシこの隣のマンションの電気点検に行った事があるんだよ。五年前からだったらもしかしたらワシが点検に行って鉢合わせとか…危なかったなあ…ふははははは』
井苅の父親は定年後に電気点検会社に再就職し数年前までは各家庭を訪問する点検業務に携わっていたのだ。
『いやあ、事前に名前がわかるからな、でももしワシが点検に来たらむこうも驚いただろうなあははは…』
そんな事はどうでも良い。
井苅はストリートビューでマンション周囲を見渡しバイクが駐車出来る場所を探していた。
「ここさあ、どっかバイク駐められるとこあんの?」
『まあ一応来客者用の駐車場があるけどな、んなもん目の前のコンビニに駐めればいいんだよ』
「コンビニに?…うん、確かにこのコンビニ駐車場広いね」
『だろ?だからワシはそこに駐めてマンションに行ってみた』
「あ⁉」
この父親何を言い出したのかと井苅は一瞬言葉に詰まる。
「…行ったの?」
『ああ行ってみた、✕✕✕号室のポストに「井苅」って表札が出てたぞ』
「で、オートロックとか…」
『そんなもんあるかよ、大分古いマンションだぞ。それでなあ、それで部屋の前まで行ってみたがそっちは表札出てなかったな、それで電気は点いてなかったから留守みたいで…』
なんと言うか非常識と言うか好奇心旺盛と言うか、今度は井苅が呆れる番である。
『ここ管理人が常駐してるんだな、それでなあ、それとなく…でもあれ、なんだ、個人情報か、最近は何も教えてくれないんだよなあ』
「そんなのあたりまえじゃん。今の時代昔じゃないんだから住人の事ぺらぺら喋る管理人なんてクビになるよ」
『まあ、だからな、だからコンビニで買い物してちょっとそこに…』
「いや、それは行ってから考えるから」
井苅はパソコンの電源をシャットダウンすると住所を記したメモ用紙を持って椅子から立ち上がる。
『で?いつこっちにくるんだ?』
「いまから」
『ナニ?』
「だから、今から行くって言ってんの!」
階段を降りながら井苅は声を荒げる。
『バイクでか?』
「ああ」
自室に置いてあるオートバイ用品を一瞥しながら「まず取り合えずそっち行くから」と言ってそそくさと電話を切ったので、父親からの『気をつけて来いよ』との声は井苅の耳には届かなかった。
身支度を整えて点検を軽く済ますと井苅はオートバイに跨る。
スタータースイッチを押すとエンジンが始動し街路に大きな音が響きわたった。
                             (令和6.04.10)                                                                                           


(3)


エレベーターを降り、玄関前で部屋番号を確認した井苅は躊躇いなくインターフォンのボタンを押した。
念の為事前に郵便受けを確認していた。父親の言う通り、そこには間違いなく「井苅」と表札が掲げてあった。
『はい』
女性の声で返答があった。それは紛れもなく井苅の母親の声だった。
「和斗志です」
『え…?』
「和斗志です」
『え、なんで?え…ちょっと待って…』
開いたドアの中には腰の曲がった白髪の老婆が立っていた。
いや、母親はまだ七十代初めくらいの年齢でこんな老婆であるはずが無い。
一瞬怯んだ井苅だったが「和斗志…何でここが…」との言葉に我に返る。
腰までの高さの柵が玄関と廊下を仕切っている。
玄関から廊下にかけて綺麗に片付けられ整理整頓が行き届いている。
廊下の先の扉は開いていて南向きの窓から明るい光が降り注ぎレースのカーテンが風になびいている。
「そんなもんいくらだって調べ様があるさ」
よく見れば頭髪や身体と比べて肌はまだ年相応と言える。何となく安心したような気持ちが井苅の心に浮かんだ。
「ユウは?」
井苅は弟の名前を口にする。
「ユウは今仕事。何で?」
「今さ、アルコール依存症と鬱病でさ、それで息子とユウの記憶が曖昧になったりしてさ…」
「子供がいるの!?いくつ?」
「いま高校生でさ、まあ、中学生の頃から不登校で…塾に通ったりしながら通信制で…」
「親にそっくりじゃない」
母親は一瞬鋭い目つきで井苅を見たあと遠い目で過去を語り始める。
「あんたの時も大変だったのよ。病院とか塾とか大検とかいろいろと手をつくして。でも、あの手紙もらった時にああ、そうなのか、何かいろいろしてあげて損しちゃったって気持ちでがっくりきちゃって…」
何だろう、あの手紙って。井苅は記憶をたどるが思い出すことが出来ない。
もしや二十数年前に別れの手紙でも母親に送ったのだろうか。
もう母親の中では俺は既に「終わった関係」だったのか?
「あ、ああ…」と井苅は言葉を濁す。
「でも、あんたにそっくりじゃない。親になってみてお母さんの苦労がこれでわかったんじゃない?」
それはその通りかもしれないが、目的は弟に会う事だ。
「ユウはいつ帰ってくるの?」
「え?ああ、確か今日は昼前に出てったから夜になってからかしら」
弟は当初このE市で勤務していたが徒歩と電車で一時間程掛かるF市に転勤になったそうで、その際駅に近く利便性の高いこのマンションに越してきたとの事だった。
「でね、今はまた転勤になってG市に自転車で通ってるの」
「自転車で?」
G市は隣町である。勤務地までここからだと自転車で最短三十分程だろう。
「あの子もいろいろ大変でね、ほら、夜勤とか昼過ぎに出勤とか勤務時間が時によって代わるでしょう?それに今ちょと体調崩しちゃって…」
これは弟が帰ってくる時間帯に出直して来る必要がありそうだ。
「じゃあ…」といいかけた井苅の言葉を遮って母親は言う。
「今は会わない方がいいかも知れない」
「え…」
「ほら、あの子気難しいでしょう?それに兄弟仲に関してもちらっとね、ほら、今でも時々言ってる事もあって…」
父親が俺の事ばかり贔屓してかわいがっていた事。
自動車でドライブに行けば助手席は井苅の特等席で母親と弟はクーペの狭い後部席に押し込められるように座らされ「たまには弟を助手席に」との母親の言葉は無視された事。
以前からそうであったが、井苅が自立して母親が家を出たあとも父親と弟は激しく衝突を繰り返していたらしい事…。
「ほら、あのひと外面ばかりいいでしょう?内面はほんと酷かったんだから」
これはかつて夫だった男がいかに思いやりの無い自分勝手で我儘な暴君だったかの話だ。
かつての妻が、いかに自分の出自が名家で厳しいしつけを受けてきたかを鼻にかけ見下してくるイヤな女だったかを父親に幾度聞かされた事か。
この辺りの話はお互い様だと井苅は思っているが、今度は両親を挟んでの井苅と弟の関係の話である。
「だからね、今はちょっと会うのはやめてほしいの。ほら、もうお母さん腰も曲がっちゃって腕も力が入らなくなっちゃったし…これね、一生懸命仕事を頑張ってたらだんだん悪くなってね」
「……」
「毎週病院に通ってね、でもね、それがユウに負担をかけちゃってて…だから夜勤の時なんかも帰ってきてすぐに食べられるように食事を作ってあげたりしてて」
「……」
「だから、だからこんな突然やって来てユウに今会ったらユウにはもっと心に負担がかかっちゃうと思う。だから、だから今は会わないであげて下さい」
「……」
井苅は母親から目を逸らし廊下の先に目をやる。
そこには真っ黒な猫が開いたドアの内側にちょこんと座ってこちらの様子を伺っていた。
「あら、クロちゃん?!」
井苅の視線に気付いた母親は振り返って驚いた声を上げた。
「このこノラちゃんだったんだけど十年くらい前に連れてきてね。宅配便とか来ると部屋の隅に隠れちゃって出て来ないのよ。やっぱりわかるのかしら、猫好きだって…」
いや、恐らく井苅のことを「血縁」「身内」と野生の感で悟ったのだろう。
だからその二人のやりとりをじっと見守っていたに違いない。
「ところで…、ところでユウの写真って無いの?会えないんだったらせめて写真でもさ」
「写真…」
母親はポケットからスマホを取り出し保存された写真を手繰るがなかなかその手が止まらない。
「クロちゃんばっか。言われてみればユウの写真は無いわね」
二十数年二人きりで暮らしていて写真が一枚も無いとは。
どこかへ出掛けて記念写真を撮ったりとか無かったのだろうか。
「和斗志の写真は?どんな人と結婚したの?」
結婚も子供も母親と弟との別離の後だった。
「外国人と結婚してさあ…」
「外国人!?じゃあ国際結婚?」
それ程驚くことでも無いだろうに。息子の小中学校では場所柄もあるだろうが、クラスに一人以上は必ず国際結婚家庭の子供がいた。
井苅もスマホを取り出して妻と息子の写真を見せる。
初めて見る孫の写真に「へえ、この子が息子さん。あまり似てないわね」と目を細めながら言う。
「写真送ろうか?」
「ちょっと扱い方がわからないから…」と言いながら、母親は井苅のスマホの写真を直接カメラで何枚か撮影した。
どちらかと言えば容姿は妻に似ている。しかし中身は俺に似てしまった…。
「お母さんはね」と母親はため息をつきながら「ユウにはもう迷惑かけっぱなしだし、身体も良くないし…もうね、もう長くないかも知れないの」
そう言われても困る。
「本当は一日でも長く生きてユウのために力になってあげたいの。でもね…」
確かに再会の第一印象は生先短い老婆だった。
しかし声や肌は二十数年前とさして変わらない様に思えた。
「あのさ」と井苅は「俺もさ、別に楽して今の生活を得たわけじゃないんだよ。苦労したけど俺は諦めなかった」
井苅が若かりし頃、いつも貧乏くじを引く友人がいた。
彼はいつでも物事を悪い方に解釈し、ネガティブな事ばかり言ってたっけ。
それが反転したのは物事をポジティブに捉えるようになってからだった。
「要はさ、楽観的な思考をすることなんだよ。悪いことばかり考えてると悪いことばかり引き寄せる事になる」
母親なきょとんとした表情で井苅の顔を見上げる。
「幸運を…幸運ってものはさ、自分で引き寄せるものなんだよ。小さなことでも良かったな、楽しかったな、…とか考えてると運が向いてくるんだよ」
「そ、そうね、そうかもしれないわね」
心持ち母親の顔が明るくなったように見えた。
「ところで和斗志、どうやってここにきたの?」
唐突に母親が訊ねる。
「バイクだよ」
「バイクう?!」
そんな素っ頓狂な声をあげなくても…。
「それでそんな格好をしていたのね」
と井苅の頭から足の先までを見渡す。
「わたしね、わたし、若い頃バイクの後ろに乗ってみたいなって思ってたの」
そんなこと初耳だ。
「ああ、きっと気持ちいいんだろうな。こう、風を切ってカーブをすいすい曲がって。若い頃あこがれてたわ。もうこの歳じゃ無理だけどね…」
「……」
「でも、わたしなんか元気がでてきたわ。一日でも長く頑張ろうって」
「……」
「ほんと初めは何を今更って思ったけど、会えて良かったって今は思ったわ」
「……」
「あ」
「なに?」
「今日はユウが早く帰って来る日だったかも知れない。やっぱり会わない方がいいから、そろそろ…」
「うん、わかった」
名残惜しそうな目で母親が井苅の顔を見る。
「ねえちょっと、帽子脱いでくれない?」
そう言われてみれば井苅は今まで帽子を被ったままだった。
「ああ、こうして見ると本当に和斗志ね。最初は誰が来たかと思ったけど…」
「それじゃ、また、何かの縁があったらその時に…」
「え、ええ、そうね、来てくれて本当にありがとう。今日の事はユウには内緒にしておくわ」
静かに扉が閉められた。
井苅はエレベーターを待たずに階段で階下へ降りた。
ヘルメットを被りバイクに跨り井苅はふと思う。
そう言えば、幼馴染のTのやつ、今どうしているのかな。
思い返せばTとも二十数年間疎遠になっていた。
ちょっと顔でも見に行ってくるかな。
「達成感」を噛み締めていた井苅には、まだ自分の心の変化に気が付けていなかった。
スタータースイッチを押すとマンションの中庭に設けられた駐車場にエンジン音が響き渡る。
爆音は空に向かって吸い込まれていった。

(了)

                          (令和6.06.18)




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