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【エッセイ】死んだじいちゃんからのお小遣い

このたび、3年ほど勤めた会社を退職し、
住んでいる場所も引っ越すことになりました。

引っ越し準備はアルバムをめくるような感覚で、
狂うほど熱中していた推しのグッズや
勉強しようと思って手をつけなかった参考書、
友達とやりとりした文通の数々。

大事なもの、
捨てなきゃいけないのに手放せないもの、
懐かしい思い出の数々が次々と出てきては
あたたかくも切なくもある気持ちになった。

そんななか、“大事なもの”と書かれた箱の中にある
一枚の封筒が目に入った。
「なんだろう?」
と、中身を見るとそこには2万円が入っていた。

そうだ、これはじいちゃんから
就職祝いにもらったものだ。

じいちゃんは9ヶ月前に亡くなった。
90歳を超えたのにまだまだ元気で
暇があれば自転車に乗って
マイペースにフラフラと出掛けていた。
この調子だと余裕で100歳を迎えるかもね、
なんて親戚はいつも笑っていた。

だけど別れは突然で、
じいちゃんは家の階段から落ちて死んだ。

いつもマイペースなじいちゃんは
去り方さえもマイペースで、
誰も予想してないタイミングで旅立ってしまった。

そんなじいちゃんからのお小遣い。
なんだかジンワリ来てしまった。

せっかく就職を応援してもらったのに、
私は頑張れたのかな。

何事も、絶対なんてことはないし
いつ突然どうなるかなんて
簡単に予想できなくなってしまうときがくる。

使うタイミングが分からなくなってしまった
死んだじいちゃんからのお小遣いを
そっと“大事なもの箱”に戻し、
また次の引越しの時に思い出そうと
そっと閉じ込めた。

この2万はいったい何のために使われるだろう。

まだ見ぬ未来へ
じいちゃんの想いは託した。

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