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中国で新型コロナウイルスワクチン「5000万回接種」の真相

すでに「ワクチンオリンピック」が始まっている

中国では、2020年12月に国薬集団のワクチンが承認されて以来、現在4種類のワクチンが市場に出ています。また、春節シーズン(2月中)に5000万人に接種すると計画をたてていましたが、その後どうなったのでしょうか。

結果を調べてみると、グーグルにもデータが転載されているように、3月上旬までに6000万回以上ワクチンが打たれているのは確かです。が、2月の時点では5000万人には達していなかったと考えられます。

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なぜなら、市場で多く使われているワクチンのうち3種類は2回接種が必要だからです。そのため「5000万回接種」という報道は、そのまま5000万人に接種された、という意味ではありません。

例えば、北京(3月2日までのデータ)では、計765万回分のワクチン接種が完了し、その数は500万人を超え、そのうち264万人が2回の接種を完了しました。ワクチンの接種回数に対して、2回ワクチンを打った人はおよそ34.5%です。このことから、大雑把に5252万回分のワクチンの34.5%の数字を出してみると、中国全土では1800万人くらいは2回の接種が完了しているかもしれません(大雑把です)。実際、私の北京の友人にきいてみたところ、医師の友人は全員2回接種済み、一般の友人は2回摂取した人と、まだ1回しか接種していない人がいました。

一方、日本の最新のデータでは、これまでに接種した人数は46,469人。

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なぜハイスピードでワクチン接種が進んでいるのか

今回は、科学リテラシー(科学的な素養)という観点で調べてみました。
電子マネー先進国の中国では、支付宝(Alipay)のアプリでもワクチンについて正しい知識がすぐに得られるようになっています。例えるならば、日本のLINEやPayPay、またはメルカリなどのアプリに、ワクチンの情報に関するアイコンがあるイメージです。支付宝では6億人のユーザーが、WeChatに至っては、アクティブユーザーが10億人を超えているため、宣伝効果も抜群です。

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このページでは、北京では新規患者ゼロ、中国全土では37名、外国から入国の新規患者が19名などの情報もトップに表示されていてます。

またその他に現在世界中で開発中のワクチンの進捗一覧のページもあります。ここには日本の開発会社の名前もみられます(臨床第1相試験中なので、先はまだ長いです。臨床は1,2,3期とあり、その後に国の許可が下りることで市場に出せるものになります)。

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Q&Aのコーナーもあります。

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「中国の新型コロナウイルスワクチンは公共財であるため、無料です。」

ウイルス学者の河岡義裕さんの「ワクチンは国防」という言葉を彷彿とさせます。

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こんな質問もありました。

「周りのみんなが接種したので、自分は打たなくても大丈夫ですか?」

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これに対する答えは、以下のとおりです。

「これは非常にリスクの高い行為です。新型コロナのパンデミックが始まって以来、『集団免疫』の概念も普及してきました。ですが、新型コロナウイルスの感染性は強く、このような呼吸器系の感染症の『集団免疫』がつくための敷居も高いのです。もし皆さんがこのように『自分だけは大丈夫』と思っているような場合、おそらく集団免疫によるバリアの実現は困難になるでしょう

なかなか手厳しいですが、率直な疑問に対して、公衆衛生の専門家が的確に答えている迫力があります。

アプリが全面的にワクチンに協力しているワケ

これはもうお気づきの方もいらっしゃると思います。

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このアプリにはアリババグループの「阿里健康(アリババヘルスケア)」が関わっています。またその他、高徳地図などとも連携して、近くのワクチン接種の機関を探して、アプリ上で予約することもできます
また別の画面では、HPVワクチン接種のクーポンも配られたりしています。つまり、こうした他社との連携やアプリ設計をすることで、そのままビジネスにも結びついていることが分かります。

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国家はワクチンを公共財として無償で提供し、民間はそれを適切に人々に行き渡るようなアプリを設計します。またもちろん、ワクチンに関する正しい情報の普及、デマのファクトチェックなどがかかせません。

アプリでは、PCR検査の結果などもすぐに調べられるのは言うまでもなく、トップページの最下段には、コロナ関連銘柄の動きまで載っており、コロナ関連の財テクサービスにも結びつけているところがさすがビジネス!と思わせてくれます。

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アプリを駆使した感染予防は、台湾のマスクの在庫アプリなどが有名ですが、中国のワクチンに関するリテラシーの普及、ワクチンの普及にも、目をみはるものがあります。

まとめ

・中国では実際に5000万回以上ワクチン接種が進んでいるが、実際に2回接種が完了した規模はおそらく1800万人程度(人口の約1.4%くらい)。
ワクチンに関する知識がアプリで分かりやすく、適切に広められている。またアプリで近くのワクチン接種場所を見つけ、予約することもできる。
・今回のワクチンは公共財として無料で提供されるが、アプリのプラットフォームでは他のワクチン(HPVワクチン、狂犬病ワクチン)などの情報も充実していて、民間の経済も回すような好循環がつくられている

2020年の日本の第1波の到来は、3月の連休でお花見シーズンに出かけたこと、つまり人出が増えてしまったことがきっかけとなっていました。
2021年は同じことを繰り返したくないと誰もが思っていますが、ワクチンの供給が遅れている以上、ひとたび同じ繰り返しになるならば、2020年と同じく経済停滞の1年になりかねません。このことへの警戒は、言いすぎても言い過ぎることはないと思います。

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