発達のメカニズム~多動傾向のなりたち
過去稿でも触れましたが、私は、日本人はグラデーション的には全員が自閉症の遺伝傾向を持っている、またその中で多動症の遺伝傾向のある人は臨床域で数%、グラデーション的には数十%くらいと考えています。
なので゛普通に”育てても多少の特性が現れるのは当然です。
育ての目標は「特性を消すことではなく、社会に適応しやすい大人になること」が、よいと思います。
それでも、適応するかしないかは本人次第ですし、社会の側の要因にもよるので必ず適応するとは言えないのが難しいのですが。。
発達特性のなりたちを知ることで、何をどう支援する、育てるといいのかを、理解できるといいなと思います。
この記事は、公式ブログ(2021.04.23)のものを、一部改変し転載しています。
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多動傾向のなりたちと支援の方向性
まず、箇条書きしてみます。
多動傾向のなりたち
● 持って生まれた特性:好奇心が旺盛、思い切りがよい、好きなものに過度に集中
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● 特徴的な赤ちゃんになる:暇だと不機嫌、寝ずに遊ぶ、誰にでも愛想がいい、言葉・運動の発達は早め…
⇒ 手がかかる子と思われやすい
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● 特徴的な子ども:落ち着きない、よくしゃべる、制止が効かない、迷子…
多くの場合、よく叱られながら育つ
⇒ 反抗的態度、自尊心の低下
↓
● 成長につれて、自制力(前頭前野機能)がつくと、人前での失敗が減ってくる、特性を有利に生かせるようになる
⇒ 社会適応
”持って生まれた特性(生理的特徴)+育児環境による経験”から、副次的に心理的反応が生じてくるところは、自閉傾向と同じです。
しかし、自閉傾向と違うのは、幼少期は「特性」そのものが問題になりやすく、長じて周囲との関係の中から生じる心理的反応が、特性の予後に影響しやすいところです。
1) 多動児とは子供らしい子供
多動症の持って生まれた特性とは、好奇心が旺盛、思い切りがよい(決断が速い・我慢が苦手)、好きなものに過度に集中する性質と言えます。そのため、多動衝動的な行動、不注意と過集中といった状態が現れます。
しかし、そもそも子どもは好奇心が旺盛です。
前述の通り、五感をつうじて脳にインプットされた刺激が脳を発達させるので、子どもの好奇心は本能行動とも言えるでしょう。「知りたい」という欲求は知性を伸ばすためにも重要です。
また、興味関心のあるものに向かい、そこへ思い切りのよい決断の速さと我慢の苦手さが絡むので、「好きなものは大好き、嫌いなものは大嫌い」となり好き嫌いがはっきりしているという評価をされがちになります。
ただしここで関わってくる「我慢する力」とは、大脳皮質のうちの前頭前野という部分の機能です。
前頭前野は、脳の発達の最終段階、およそ7,8歳~20代前半にかけて発達します。
つまり、すべての子どもは前頭前野が未熟なので、多動症の子のみの問題とは言えません。
そう考えると、多動症特性とは“好奇心が旺盛すぎる”と“好き嫌いがはっきりしすぎる”ところと言えますが、これは“子どもの特性”が少し極端なだけで、子供らしすぎる子供と考えられます。
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これらの性質をもった子供らしすぎる子供は、赤ちゃんの頃から周囲の子と違う(異常という意味ではなく)と思われがちです。
多動気味の乳児
あまり寝なくて泣いてばかり
かまってあげたり連れて歩くとすごく楽しそうにする
人見知りせず誰にでも愛想よくする
言葉、運動の発達は早め
多動気味の幼児
よくしゃべり、よく走る
移動できるようになると迷子になりがち
欲しいものはためらわない(粗暴行為や道路への飛び出しなど)
嫌なことは全力で拒否
興味のある事しか注意が向かない(話を聞かない、生返事など)
興味のある事に熱中すると、他の刺激に反応できない
乳児幼児共通して、好奇心が旺盛すぎ・好き嫌いがはっきりしすぎと考えると理解できる行動です。
総じて、愛想がよく人懐こい元気のいい印象の子が多いです。
日本のような社会ではこのタイプの子は、特に集団生活に入ると「問題児認定」されがちになります。
おそらく社会の側に「子どもなんてこんなもの」という寛容さがあった時代には、問題にならなかったかも知れませんが、今の社会は子どもに大人のふるまいを求めるので、子どもも保護者も肩身の狭い思いをしがちとなります。
多動症の副次的な心理的問題はそこから生じます。
2) 叱られまくった結果…自尊心の低下
叱る子育てより褒める子育てがよい、という言説を知らない人は少ないと思いますが、多動症気味の子の場合、まさにその影響をもろに受けている子が多くいます。
多動気味の子は集団生活以前から叱られまくっていることが殆どです。
親(養育者)にしてみれば、いう事は聞かない、危険な行動はする、何度言っても覚えない、反省が続かない(悪びれない)など叱らずにはいられない子なので、仕方ないのだと思いますが…
どのくらい叱るか、どんな𠮟り方をするかは、親子のキャラによっても違うのですが、集団生活が始まると否応なく他の子ができることができない、と評価されるため、本人の自尊心は下がってきます。
受診する幼児でもたまに、小学生なら100%自尊心が低いと言ってよいと思います。
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子どもの自尊心の低さは、大人とは表現が少し違います。
あまり自信がなさそうにはしないかわりに、反抗的になることが多いです。
反抗は、「あんたのことは信用しねー」とばかりに睨んだり、返事をしなかったり、わざと粗暴なことをしたり、からかったり、大人を怒らせようとしたり…いろいろな形で現れます。
もともと人懐こく愛想がいいし長続きが苦手なので、だいたいの子は話していると人懐こさが見えてきます。幼いうちは反抗と人懐こさがコロコロ変化する子もいます。
この自尊心の低さの何がいけないかというと、多動症としての予後に大きく関わることです。
3) 自尊心が低いことの問題:前頭前野が鍛えられない・周囲の誤解をよぶため悪循環
上で発達の最後の段階と書いた前頭前野は、他の動物と違いヒトで特に大きく育っている脳の部分です。
つまり、動物と違うヒトらしさ=高次脳機能の多くを担う脳の部分と言えます。
具体的には、自制・我慢する力(価値の判断と意思決定力)、ワーキングメモリと実行機能(計画を立てて順序・系統だって何かを行うことと、その過程を頭に入れておく超短期記憶)などです。
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前頭前野は、感覚入力など原始的な脳の機能の発達の後、7,8歳ごろから20代前半くらいにかけて発達すると考えられています。
前稿;発達のメカニズム~自閉傾向のなりたちでも書いたように、発達は脳のその回路を使うことで成し遂げられます。
前頭前野については、7,8歳~20代前半の年代に上に書いたような“高次脳機能”を使うことが重要になります。
しかし、自尊心の低い子ども(多動児に限りません)は、「どうせできない、叱るんでしょう?」「やったって無駄」「やってやらない」などのマインドとなり、自制を働かせたり、難しい課題に取り組んだりすることを避けがちになります。
これは「前頭前野の発達しにくい要因」となります。
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また、反抗的な態度は、本人の困り感を「本人の人格のせい」と誤解させます。
受診する多動症の子のほとんどは、学校では「分かってるのにやらない子」と評価されてしまい、発達特性は見逃されています。
むしろ自閉かつ衝動的な子の方が「分かったと言いつつ分かってないので、発達障害(多動)ではないか?」と評価されていたりします。
この“本人の人格の問題”との誤解は、周囲から叱責や、人格否定発言を呼び、さらに本人の自尊心をそぐ悪循環になります。
人は、「自分はどんなカテゴリーの人間である」という認識によって、社会的な態度を決める側面があります(参考;のぞましい習慣を子どもに教えるにはどうすればよいか?)。
「どうせ自分はダメ人間だし…」と自己認識することは、前頭前野を鍛えるチャンスをふいにするばかりか、鍛えられていたとしてもその機能を使わなくさせてしまう要因になります。
子供に関わる大人(親も支援職も)は、子供の見せかけの反抗に惑わされないようにしてほしいと思います。
4) 不注意傾向が強ければ言語の発達も遅れる
好奇心が強く、好きなものに向かっていく多動傾向の子の特徴は、興味のないものに関心をむけない“不注意”として現れます。
この不注意が強い時に生じる問題が、コミュニケーションの発達の遅れです。
過去稿で、言葉、コミュニケーションが脳への感覚入力の結果発達することを考察しました。
とすると、感覚認知に問題がなかったとしても、人や声に注意が向かなければ発達は進みにくいと考えられます。
人や人との関りに興味のある子は言葉の発達が早くコミュ力の伸びもよい反面、人ではないものに興味の向く子はコミュ力が伸びていないことがあります。
この辺が、自閉と多動の鑑別の難しいところと個人的には思います。
なので、多動症の子も前稿の自閉症の子と同じように、コミュニケーション力を伸ばせるように養育者が意識して関わった方がよいと思われます。
自閉症気味の子と違って多動症の子は、好奇心が強すぎるのが特徴です。その性質をうまく使うのがお薦めです。
本人の興味のある話題、興味のある事柄に一緒に参加することです。
元来人懐こいので、興味を持ってくれる人にはたくさん話をしてくれます。自分語りで人の話を聞かない傾向が強いですが、興味のある話題でうまく質問をふるなど、やりとりになるように工夫してみるとよいと思います。
〈つづく〉
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