お手製クリスマスケーキ【レシピもあります】
# 96 書き手:一陽アケル
【事の発端】
『世の中キャラケーキなるものがあるらしいな』
Twit◯erを見ていると、不意にタツがにやにやしながらツイートを指差した。
どうやらキャラクターにちなんだケーキを作ってくれるようだ。アニメや漫画と提携して制作しているところもあれば、キャラクターをイメージした色やフルーツなどをオーダーメイドしてくれる店もあるらしい。
『今は推し活の時代じゃ。ワシ、今年はクリスマスケーキが欲しいのぅ』
「自分で買うのか?!」
『ワシの原作は結構前の作品じゃけぇ、自分で頼むよりないな。この店は注文すれば作ってくれるみたいじゃ』
「どれどれ?」
そうして指差したケーキは、こぢんまりとしてどうもぱっとしない。上面はクリームを絞ったのみでフルーツもなく、チョコペンで描いたキャラクターもかなり似てない。控えめに言って愛が足りない。
なによりお値段。¥7,500である。
「いくらなんでも高すぎるだろ !」
『ワシの金じゃけぇ、ええやろが!』
「シ◯トレーゼはいちごが7つ乗ってて¥3,000なんだよ!」
某工場直営店と比べるのは酷だとは思うが、それにしても、こう…推し活需要に乗ろうとしてるだけで、愛が足らない気がするのだ。
「これを買うのは勿体無い…」
『ゴチャゴチャうるさいわ!ワシも自分の顔の載ったケーキが食いたいんじゃあ!』
タツが居丈高に言うので、ぼくは思わず喧嘩腰に言ってしまった。
「じゃあ俺が作るよ!俺は¥6,000でいいから、フルーツの乗った美味いのを作ってやる!」
『お…おう?』
タツゴロウはぽかんと口を開けた。
「スポンジとクリームとケーキ用の道具は必要だけど、その資金ならフルーツも買える。イラストもぼくが描いたのを使えば個人利用だからさ」
『お前が作ってくれるんか?大変やないか?』
「それくらい大丈夫だよ。タツゴロウとぼくの仲じゃあないか」
わざとらしく善意を振りまいたが、200%打算である。
材料と調理器具を買っても¥2,000程度でおさまるはずだ。残り¥4,000をせしめてやろうと思った。
『ほんまに作ってくれるんか?』
タツは声のボリュームを下げて神妙に尋ねる。
その様子から、タツが普段何かを欲しがることがあまりなかったことを思い出した。お小遣いも使ってなかったのでまとまった金額はある。
それでも、割に合わないケーキにお金を使ってほしくはない。
タツをよく知らない遠くのプロよりタツをよく知る近くのオタクだ。打算200%だが、2%分は愛が含有されているはずだ、たぶん。
「いいよ。クレオにも聞いて、欲しいって言ったら作るよ」
『なら手作りの方がええな、楽しみにしとるわ』
タツはぼそぼそと言った。
あいつ、なんやかんやワシに甘いんじゃ。後からそう、クレオにぼやいていたらしい。
◇◆◇
とはいえ、そこからが問題だった。
まず、物価が高い。生クリーム、果物、スポンジ生地が残らず上がっていた。正直¥7,500でも仕方なかったのかもしれない。(つくづく某シャ◯レーゼは値段がバグっていたのだと分かった)
更に、ネットの製菓通販はクリスマスは繁忙期で、郵送はクリスマス以降になる。
どうにかcottaさんでココアスポンジを購入できたが、生の果物は売ってないし、調理器具とクリームは在庫がなくなっていた。
イラストや小物は手描きするとして、残りはスーパーと百均のお店で購入した。
【制作:柿のクリスマスケーキ】
cottaココアスポンジ直径15cm(1セット2枚)
生クリーム(400ml)
42%クリーム(1パック200ml)
38%クリーム(↑と同量)
(1パック200ml)
砂糖40g
グランマルニエ小さじ1(オレンジリキュールでも代用)
シロップ
砂糖
水
グランマルニエ小さじ1〜2
柿のコンポート(数日前に作っておく)
柿(4つ)
日本酒200ml(調理酒よりちょっといい酒を使った。なければ白ワインでも可能)
砂糖大さじ3
アラザンなど飾り砂糖(百均やスーパーの製菓コーナーでも手に入る)
1:柿のコンポート
柿は種を取り6〜8分割くし切りにする
材料を鍋で合わせて火にかける。沸騰したら弱火で15分
火を止めて、粗熱が取れるまで冷ましておく
柿のコンポートはそれだけ食べても美味しい。洋梨と和梨のちょうど中間くらいのサクサクとした食感で、日本酒なのと柿の風味でやや和風に寄っている。
しかし後でも書くが、ココアスポンジとオレンジ風味の生クリームが見事に噛み合った。
2:スポンジにシロップを染み込ませる
シロップの材料をまとめて火にかける
スポンジの封を開ける(表面が破片やケーキ屑あるので、払っておく)
シロップを調理用刷毛で染み込ませる(びしゃびしゃなくらいでいい)
サランラップをかけて冷蔵庫に入れておく
3:生クリームを泡立てる
2種類の生クリームを合わせて、ハンドミキサーで混ぜる
↑の途中、砂糖を数回に分けて加え混ぜ、お酒も加える
生クリーム35%と42%の違い
4:組み立て
柿のコンポートは飾り用、スポンジの間に挟む用と分けておく(スポンジの間に挟む柿は細かく刻んでおく)
スポンジの上に生クリームを塗り、柿のコンポートを乗せていく
クリームを更に乗せ、平らにならしてから2枚目のスポンジを乗せる
生クリームを上に乗せてナッペ(上めんと側面に塗りつけること)
飾りで生クリームを絞り、柿、クリスマスの飾りを乗せる
ナッペで参考にしたサイト↓
◇◆◇
写真でぱっと見は分からないが、実はケーキは失敗している。あれだけ大言壮語をかましたのに、生クリームが緩かったのである。
ネットで散々、「混ぜすぎるとボソボソになる」という文言を見たせいで、怖々混ぜた結果固くなる前にスポンジに塗ってしまった。
なんとかこの後、クリームの上に柿とイラスト、飾りを乗せ、完成した。
タツにはだいぶ待たせてしまった。
◇◆◇
『上手くできとるやん、ほんじゃあいただきます』
タツゴロウは見た目で文句を言うやつではないが、味には好みがあり厳しい。
『おお、美味いぞ。これはええ!』
どうやらお眼鏡にかなったようだ。タツゴロウの後、自分も食べてみる。
「生クリームうまっ」
作りたての生クリームがこんなに美味しいとは思わなかった。正直コンビニやファミレスで食べるケーキよりも数段美味い。オレンジリキュールの香りと甘みも合わさり、家だけの特別な生クリームだった。
ココアスポンジ…さすが製菓材料専門のスポンジで、ココアの香ばしさがたまらない。
お酒を効かせたシロップが染み込んでいて、生クリームと柿のコンポートと合わせて食べると、香ばしさと甘さがしっとりと口に広がった。
見た目だけ反省だが、味は120点だ。
家でこれだけ美味いものが作れるのだから、これからもちょくちょく作りたい。
『たくさん手間かけさせたな。ほんまありがとうな』
タツは茶化さず丁寧に感謝をくれた。
「ぼくも楽しかったよ。また作るよ」
ぼくも謙遜や茶化しはせず、素直に受け取った。
『お前もクレオもたくさん食べろ』
「いいのか?」
『そういうのがしたかったんじゃ』
タツはどうやら、自分のケーキをぼくらにご馳走したかったらしい。
つくづくタツらしいなと思いながら、遠慮なく食べた。
おまけ
『こっちもブドウとクリームが合って美味しいよ』
クレオのケーキは市販のバウムクーヘンに残った生クリームをかけ、種無しの生のブドウを散らした。
(同じサイズを作ると食べきれなくなってしまうので、こちらは小さいケーキにしてもらった)
バウムクーヘンが玉子と小麦粉のみっちり豊かな味、そこにコクのある生クリームとフレッシュなブドウが引き立てていた。