【曲連想創作①】ねごと「ふわりのこと」
君はベッドで横になり、目を閉じている。
身体は大体丸まっていて、表情は見えない。
一日中だ。
眠っているときもあれば眠ることができずに苦しそうにしているときもある。
一年半前、君は精神科でうつ病と診断されて仕事を休職した。
あの朝、君は、起き上がることが苦痛だ、と涙を浮かべながら乾いた口で私に訴えた。
私は、君の職場に休む旨の連絡を入れた。
君は、そのあと自力で精神科に行ったようだった。
君がどんなに主治医の言いつけを守り、心身に負担が無いよう治療と向き合って生きようと試みても、時間は無常にも過ぎていった。
君の身体は改善の予兆を見せてはくれなかったし、私は仕事に行かなくてはならなかった。
空腹を満たすために徒歩5分のスーパーマーケットに行くことも、友人に会うことも、化粧をすることもできなくなった君が家にいると思うと、私はたまらなく胸が苦しくなった。
ふと、恐ろしい不安が頭をよぎり、仕事を早退したことが何度かある。
電車が少しでも遅延するとイライラし、エレベーターを待てずに階段を駆け上がる。
君がいなくなったら私は…。
君がいなくなったら私は…!
そんなことが度々あった。
君が休職してからというものの、私は仕事から急いで帰り、夕食の準備をして君を呼ぶ。
君はそこで一日の中で唯一食べ物を口にする。
私がいてもいなくても残りの時間はベッドで目を閉じている、そんな生活を送っていた。
先の見えない暗い深海に独りで閉じ込められているような、心の芯まで冷えてしまったような、君はそんな目をしていた。
夕食の時間、大体君は「今日も何もできなかったの」と己に失望した目で言う。
私は「そんなことないよ」としか言えない。
そんな生活を一年続けたとき、君は「わがままがあるの」と、ドア越しに言った。
私はすぐに君を部屋に招き入れた。
「わたしのために生きてくれないかな、ごめんね」
私は、嗚咽を漏らしながら泣いた。
どれくらい泣いていたのかはわからない。
大の大人が泣いた、だけど、大の大人は泣いても仕事に行った。
毎日、私は家路を急ぐ。
今日の君は少しでも元気になっているだろうか。
起き上がれているだろうか。
花に水をあげてくれただろうか。
カメに餌をあげてくれているだろうか。
君のことだから、花に夢中になってはいやしないだろうか。
パンとスープ、食べてくれるだろうか。
散歩に誘ってみてもいいだろうか。
会社を出て、急ぎながら、空を見る。
少しほっとした。
なんだ、晴れていたじゃないか。
そうか、晴れていたのか。
私が仕事をしていても、案外、大丈夫そうじゃないか、と嬉しいような寂しいような感覚になる。
ねぇ、私、守れていると思うんだ。
君と交わした、君との世界の約束。
君を中心に、私は今日も世界をまわすよ。
だから君は自由に生きてよ。
わかったって。
はやく、ご飯にしよう。
はやく、かえるよ。
End.
(絶対に絶対に間違った解釈であることは自覚しております。私の妄想だと思ってください。)