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自民党の派閥力学の現状~内閣改造前に各派の影響力を整理してみた~
派閥政治と聞いて良いイメージを持つ方は少ないでしょう。有権者から審判をうける選挙とは別のところで「偉い人」の「話し合い」で政治を決めるわけですから、このようなイメージが定着するのもむしろ当然かもしれません。
一方、現代の政治においても派閥力学が強い影響を持っていることも多くの人が認めることでしょう。とくに自民党は強大な組織力を持った派閥がいくつも存在しています。政治の現状を理解するうえでこうした派閥の影響力を把握しておくことは欠かせないのです。
8/10に内閣改造が行われる予定です。ここでは当然、派閥力学にも変化がおこるでしょう。今回はこの内閣改造を前にして、現状の派閥力学を整理しようと思います。
自民党の主要派閥、グループ
まず、各派の概要を紹介します。
安倍派
安倍元首相が会長を務めていた衆参96名が所属する党内最大派閥です。安倍元総理が銃殺されたあとも安倍派と名乗っています。自民党の中でも保守的な政治スタンスの議員が多いのも特徴です。派内には福田系の議員と安倍系の議員がいて微妙な関係にあるとされていますが、必ずしも政策的に対立しているわけではありません。実際、現在官房長官を務める松野議員は福田系とされていますが、外交・安全保障、金融面で安倍元首相(安倍系)と政策が非常に似ています。様々な見方がありますが岸田内閣において主流派とみなされることが多いです。
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派内の反発から結局集団指導体制にはならなかった
茂木派
茂木幹事長が会長を務め、衆参54名が所属する自民党第2派閥です。もっとも、第2派閥から第5派閥までの所属人数は、±10名強で拮抗していますが。日中国交正常化時の首相、田中角栄の系譜を踏んでおり、中国に融和的な議員が多いと言われています。参院議員を中心に茂木議員の会長としての資質を疑問視する声もありましたが、現在は表立った対立はありません。岸田内閣では主流派となっています。
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麻生派
麻生副総裁が会長を務め、衆参52名が所属する自民党第3派閥です。岸田派とともに自民党としてはリベラル路線の議員が多いことで知られています。(岸田派と麻生派は系譜をたどると同じ派閥につながります)岸田内閣では基本的には主流派とされていますが、河野太郎議員を支持した議員は反主流派として冷遇されているという見方もあります。
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二階派
二階元幹事長が会長を務め衆参44名が所属する党内第4派閥です。二階議員の個人的な勧誘により入会した議員が多く、派としての政策を見出すのは困難です。二階議員が幹事長から外された後、複数名の退会がありました。直近の総裁選で岸田議員が事実上の二階外しを公約に掲げたこともあり、岸田内閣では非主流派となっています。
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岸田派
岸田首相が会長を務め、衆参43名が所属する党内第5派閥です。リベラル路線の議員が多く、官僚とのつながりも強いとされています。直近の総裁選では派でまとまって岸田議員を支持しており、他派と比べても結束力が強いと言えます。総理の出身派閥であり、当然主流派です。
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森山派
森山総務会長代行が会長を務め、衆参7名が所属する小規模な派閥です。岸田内閣では非主流派とされています。
グループ
自民党には派閥の他に、派閥ほどの統率力はないグループが存在します。順に見ていきます。
・谷垣グループ
複数の大臣を歴任した谷垣元議員が特別顧問を務める主流派のグループで岸田派や麻生派と近しい関係にあります。(ただし両派との合流は事実上の破談となった)衆参19名が所属していますが、11名が他派閥と掛け持ちしており、自妻質的な動員力は10名程度だと考えられます。
・菅グループ(ガネーシャの会)
衆参23名が所属している非主流派グループですが、グループなので実際の動員力が何名程度なのかは不明です。
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・石破グループ
非主流派。かつては石破議員を総理にするための派閥でしたが、石破議員の総裁選での集票力の衰えなどにより、現在はグループとして9名のゆるやかなつながりとなっています。
岸田内閣の顔ぶれ
さて、現在の党内力学が概ね固まったのが岸田内閣の発足時です。まず、閣僚では
安倍派4名(うち1名が官房長官、1名が防衛大臣)
茂木派5名(うち1名が外務大臣)
麻生派3名(うち1名が財務大臣)
岸田派3名(総理大臣は除く)
二階派2名
となりました。また、党三役は
幹事長 麻生派
政調会長 無派閥(安倍派会長の安倍議員に近い高市議員)
総務会長 安倍派
となりました。この他、安倍派が国対委員長・衆院議長・参院幹事長、茂木派が参院議長・参院議員会長、麻生派が副総裁、谷垣グループが選対委員長のポストを得ています。
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冷遇されて非主流派 微妙な立ち位置にある安倍派
岸田内閣発足直前の総裁選では、岸田議員が高市議員とのいわいる2位3位連合を組み、勝利しました。そのため、この二人以外の候補を支持した議員は非主流派となります。この総裁選は各派がまとまって誰かを支持するというのが難しい選挙でしたが、派幹部がこの2候補を支持しなかった二階派、菅G、石破派(現在は石破G)は非主流派と言えるでしょう。
そしてこれらの派、グループはあからさまな冷遇をされました。石破派、森山派は閣僚、党要職ゼロ、二階派は党要職ゼロで閣僚も防衛外務財務と比べると重要度の低い枠2つのみといったぐあいです。
もっとも非主流派の冷遇は自民党では日常茶飯事です。むしろ注目すべきは安倍派の伸び悩みだったかもしれません。とくに麻生派と比べたときに官房長官を除いた大臣の数は両派とも3。官房長官と幹事長はともに強大な実力を持ちどちらが上とは決めがたい、と完全に互角のポストの得ぐあいです。最大派閥としては物足りない「戦果」だったでしょう。
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麻生派と茂木派の逆転
人事でかなり優遇された麻生派でしたが、思わぬところでつまづきます。甘利幹事長が選挙区で落選してしまったのです。(比例復活)結局、甘利議員は幹事長を辞し、後任は茂木議員となります。ここで幹事長の座が麻生派から茂木派に移ったのです。茂木議員は外務大臣を務めていましたから、茂木派の大臣枠は1減りましたが、それでも4大臣枠を選ており、派の規模から考えると十分すぎる水準です。ちなみに外務大臣の後任には岸田派の林議員がたてられ地味に岸田派がん勢力を増しています。
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派閥内抗争回避に懸命な安倍派
先月、安倍元総理大臣が銃殺されました。これにより、安倍派内では後継争いになるのではどの懸念がありました。故安倍元総理は生前、後継者指名をしなかった一方、派閥内には要職を経験した議員が多数存在するからです。しかし、内閣改造が近いこともあり、派の分裂を回避しようという声が強かったようです。結局、現状の役職維持で塩谷議員を派の窓口とすることでまとまりました。下村議員がやや得をしたかたちです。ただ、結局後継者は決まらず、分裂の火種はなお大きいと言えます。
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