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「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」読書感想文

著者

フィリップ・キンドレド・ディック(1928~1982)
5月24日読み始め5月28日読了。

訳者

浅倉久志

あらすじ

 最終戦争後の世界。人間以外の生き物はほとんどが死滅した世界では、“本物の生き物を飼うこと”が最高のステータスとなっていた。主人公のリック・デッカードは元警察官で、今はアンドロイドを抹殺(破壊)して賞金を稼ぐバウンティハンター。彼は機械の羊を飼っているが、本物の生き物を飼うために、手ごわい最新式のアンドロイドを次々に葬っていく。

印象に残った人物

 人物ではないが、相棒フィル・レッシュの飼っているリスのバフィー。踏み車(回転するヤツね)でいつまでも走り続けるというフィルの話にデッカードが「リスってのは、あまり利口じゃないんだよ」と応える。
 これは人間そのものを喩えているようで、とても印象に残った。

感想

 一日で六体のアンドロイド始末したデッカード。しかし、彼は虚無感にさいなまれ、一人カリフォルニアの荒地へと、ホバー・カーを走らせた。
 機械相手とはいえ、彼らはあきらかに意思を持っていた。しかもデッカードは、最終決戦に向かう前に、アンドロイドのレイチェルと性行為をしていた。犯罪を犯したアンドロイドを殺す(壊す)ことは、法的には問題はないが、やはり心の重荷にはなるに違いない。
 そもそも、なぜアンドロイドを殺さなければならないのか? ステータスの高い動物を飼うため。それが人生における最高の目的なのか? だとしたら、最終盤で山羊がレイチェルによって殺された時、なぜデッカードの中に怒りが湧いてこなかったのか? そう、彼は本当は分かっている。一番大事なのは金でも動物でもなく、妻との生活なのだと。
 しかしこの物語は、そう単純ではなく、様々な問題提起が含まれているように感じる。訳者あとがきの中にある作家ジュディス・メイルの言葉を引用する。

 これは内容豊かな本だ。人口減少と半致命的な放射性降下物、ウィルパー・マーサーと共感ボックス、生類への宗教的愛護とアンドロイドに対する無慈悲な殺戮、特殊者と賞金稼ぎ、ムードオルガンとバスター・フレンドリー、これらの要素の一つ一つが意味を持ち、それが混然一体となって、さらに深い意味を持つように構成されている。あなたは再読のたびに新たな角度からそれを発見するだろう。
 そして、かなり自信を持っていえるのは、このハッピーエンドがあなたを泣かせるだろうということだ。

 そう、この物語は色々な要素が混然一体となっているのだ。ゆえに、人それぞれ、印象に残るシーンに違いがあると思う。
 私の場合は、アンドロイドの無慈悲さだった。世話をしてくれる特殊者(知能の低い人間)へのあからさまな差別感情。さらに、「四本足になったらどうなるか?」という興味本位のみで、蜘蛛の足を一本ずつ切り取っていく残酷さ。アンドロイドによって行われるこれらの行為と、人間がアンドロイドに対して行なう行為(殺戮=破壊)との間に、根本的な違いがあるのだろうか? そこには「人間とはなんぞや?」という、古代から続く永遠の疑問が見え隠れする。
 物語に勢いがあり過ぎて、単なるエンターテイメント作品に思われるきらいがあるが、人間の根源を問う哲学書のようにも感じた。

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