【BOOK INFORMATION】激しく動き続ける東アジア ―そのエネルギーをやさしく「学問」する
『新・東アジアの開発経済学』
本書は大野健一氏(政策研究大学院大学名誉教授)を中心に4人構成で共同執筆されている。残る執筆者は櫻井宏二郎(専修大学経済学部教授)、伊藤恵子(千葉大学大学院社会科学研究院教授)、大橋英夫(専修大学経済学部教授)。
大野教授は、“はしがき”で東アジアの経済発展を学ぶ際に有益な3つの視点を提示している。⑴東アジアのダイナミズムは貿易・投資・援助・情報・人的交流を通じるネットワークに支えられているので、この地域メカニズムの構造や動態を解明することこそが東アジア開発経済学の核心である。⑵本書は経済を分析の中心に据えているが、同時に歴史的・文化的・政治的視角も取り入れている。また経済成長をもたらすプラス面だけでなく、所得格差、環境破壊、労働者や住民の権利、デジタル化の問題点といった影の部分にも光を当てている。第3に一般分析と個人分析を組み合わせていること。
次に目次を紹介すると、第1章(東アジアのダイナミズム)、第2章(直接投資と貿易構造)、第3章(地域連携と貿易・資本の自由化)、第4章(開発におけるデジタル化と社会的側面)、第5章(開発をめぐる政策論争と政治体制)、第6章(日本経済の歩み)、第7章(中国の経済発展)、第8章(東アジアの先進経済)、第9章(ASEANの先行経済)、第10章(インドシナ半島の後発経済)、第11章(南アジアの動き)。
本書は1997年に発刊された「東アジアの開発経済学」をベースとして全面的に書き直したものであるが、旧版から四半世紀以上を経た今日、アジアダイナミズムには変わらない部分もあるが、やはり相当の変貌が見られると、次のように述べている。
まず、1997年~98年には、アジア経済危機が起きた。だが、その甚大な短期的ダメージにもかかわらず、この危機は各国の成長トレンドにあまり大きな影響を与えなかったようである。
経済統合においては、多くの地域・二国間協定が結ばれ、各国の思惑も絡んだ複雑な経済連携ネットワークが形成された。
長期的な構造変化としては、中国の急速な台頭があり、逆に日本では長い低迷が続いた。東南アジアの国々は工業化を進めたが「中所得のワナ」や「早すぎる脱工業化」に直面する。国も多く、さらなる高みにのぼるには、いくつかの課題を表明する必要があるとして、旧版では詳論しなかったラオス、カンボジア、ミャンマーなどの後発グループも多くの国難を乗り越えて、アジアダイナミズムの一部に登場してきた。さらにインドを含む南アジアも注目されている。
開発政策の中身ではグローバル化、デジタル化、気候変動、少子高齢化、労働者の人権、ガバナンスなどの課題がますます重要性を増していると、さらに一歩踏み込んだ研究姿勢を提示している。
本書はまさに東アジアのダイナミズムに焦点を当てながら、日本経済の歩み、中国の経済発展を追跡している点では、学問の多角的研究書として高く評価されよう。
本書のタイトルは新しい東アジアの開発経済学として注目されているが、そこには執筆者たちの、真摯な研究者魂が充満していることを忘れるべきではない。
なお、著者の一人である大野健一氏は若い頃からわが国の国際援助機関に籍を置いて、開発途上国援助にも関係しているので、説得力を有している。
(本誌主幹・荒木光弥)
『新・東アジアの開発経済学』
大野健一、櫻井宏二郎、伊藤恵子、大橋英夫 著
有斐閣
2,700円+税
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本記事は国際開発ジャーナル2024年7月号に掲載されています
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