「100分de名著 アーサー・C・クラークスペシャル」感想文
私は今まで、クラークという作家を知らなかった。
第一回の冒頭で出た代表作「2001年宇宙の旅」も読んだことがないし、内容も知らなかった。私はSF小説というものに大した興味がなく、到底読もうと思ったこともなかった。今回、なぜこの「クラークスペシャル」を見ようと決めたのか。それは単にシリーズの最新回だったからである。そして私は、そのたまたまに今は非常に感謝している。
SFに関しての知識は、概ね番組中に伊集院氏が語ってくれた印象と変わらない。科学が発展していて、ややこしい科学的知識や根拠がなければ読むことも、作ることも困難で、非科学的なものごとを嫌い登場させない。そういう印象であった。
それが番組を見ていく中でどんどん変わっていった。
私が番組を見ていて一番好きになり、自分でも読んでみたいと思ったのは「幼年期の終わり」と「都市と星」だった。
「幼年期の終わり」ではオーバーロードが悪魔の姿であることを過去の人が抱いた畏れや危機感と示唆されていたが、番組中ではあまり言及されずに終わった。締めではオーバーロードが悲劇的であることなど、同情的な意見であった。
だが、私はまったく逆の意見を抱いた。おそらく、オーバーロードは正しく悪魔なのだろうと、そう感じた。オーバーロードは確かにオーバーマインドになれなかった種族ではあるが、私個人は集合体になりたくない。
オーバーロードは地球のあらゆる問題をあっという間に解決したけれど、誰もがやる気を失い、生産性を奪われた。私は怠惰な人間ではあるし、長生きしたくもないが、ここまで徹底して奪われるのはおもしろくない。誰かに提示されて従うしか選べないなど、それこそ生きる意味がないように思うのだ。
だからこそ、オーバーロードは悪魔だったのだと思う。彼らは自分たち独自の正義や価値観を地球人に押し付けて、一方的に「あー本当にあんたたちが羨ましいわー!」って叫んでいるように思えてならず、なんて勝手なやろうだ! と、番組の終わりで私は憤っていた。
作中で地球人もいいようにされやがって! などと思った。なりたいかどうかも私達へ確認せず、彼らの望む可能性を開花させられた。悔しい! と思った。
「都市と星」は素直に良い話だなと感動した。「幼年期の終わり」が可能性の押しつけなら、「都市と星」は可能性の模索と、開花させるための努力のように思えた。
アルヴィンに対して「十億年ぶりに生まれた子ども」というのも、たまらないワクワク感で銀河万丈氏の朗読を聞きながらものすごく胸が高鳴った。
ダイアスパーが、今まさに現代の私達が進もうとしている未来都市のかたちのような気がしてクラークの想像力にゾッとしたし、私自身がダイアスパーを魅力的なものに思えてしまったことにもまたドキッとした。まるで輪廻転生だと番組内で言っていたが、私も同じように感じ、SFというよりも宗教的な小説だと思った。
アルヴィンは待ち望まれたヒーローなんだという話しも、聞いていてすごく興奮した。そのヒーローが、やがて故郷に戻り、故郷を守るのだという物語の展開も、すごく良かった。
閉じられた場所で疑問を持って、それを解消するために行動する。自分の得た答えを周囲に共有して、理解を求める。わかってもらえるように尽力し、絶対に諦めない。まさしく王道的な主人公で、小さい頃に是非出会いたかった。
指南役の瀬名氏の解説も、伊集院氏の視聴者目線の意見も、本当に本当によかった。伊集院氏が言っていたが、私もクラークと銀河万丈氏との相性は抜群だと思う。
見ていてとても楽しかった。時間ができたら、自分でもクラークの本を読もうと思う。