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【連載小説】『お喋りな宝石たち』~竹から生まれし王子様~第六部  第七十八話「フォスのお誕生日」

第七十八話「フォスのお誕生日」

「あ~暑い。暑い。今年は六月から危険レベルだよね。

七月に入ったばかりなのに。はぁ~生き返る」

春木は外から入ってくると、

エアコンのきいた室内で息を吐いた。

「お帰り~」

瑠璃たちが振り返った。

この前のイベントが終わり、

都内のいくつかの駅ビル内の店舗から、

商品を卸して欲しいと言われ、

その窓口を春木が行っていた。

瑠璃は店の奥の冷蔵庫からペットボトルを取り出すと、

春木に渡した。

「はい」

「有難う」

春木がスポーツドリンクを飲み干すと、

「飲んでも飲んでも汗で流れていくよね」

と笑った。

「ご苦労様。で、どうだった? 」

太一が聞く。

「複合施設のアクセサリーは、

その近辺の客層が大事だから、

この前瑠璃ちゃんと何店舗かに決めたじゃん。

で、入ってるアパレルが若年層向けの所は避けて、

もう少し上の年齢層で当たってみた結果、

この辺りなら受け入れられるかもしれない」

春木がそういって幾つかの駅ビルを見せた。

「駅直通はこことここ。

うちは不景気でもアクセサリーを楽しんでくれる人向け。

懐の温かい人は高級店の方に足が向くだろう? 

この前美津子さんも言ってたじゃん。

瑠璃ちゃんのアクセサリー見て、

若者向けな感じがしたから躊躇したけど、

付けてみたらしっくりして綺麗で可愛いって。

それなんだよそれ。

実際見てもらうと、年齢関係なく手に取りたくなる」

「若年層はダメ? 」

太一が眉間にシワを寄せた。

「ダメじゃないよ。でも彼らは人気アパレルが決まってるからね。

有名人でも左右されるし、

年齢の高い男女でも流行に敏感な人は、

そっちのアパレルに流れちゃうだろ? 

そういう所はトータルコーディネートが得意だし、

うちじゃ太刀打ちできないでしょ。

天然石のブレスやビーズアクセサリーも人気だし、

うちのアクセサリーは一般的に人気があるデザインとは、

少し趣も違うから、

幅広い年齢の男女に楽しんでもらいたいわけよ」

「はぁ~なるほどね」

太一が頷くのを見て、

「社長がそうだから、この店の経営が成り立たないのでは? 」

瑠璃が口を尖らせた。

「だってさ~元々天然石の卸問屋だったからさ~

今でこそアクセサリー販売で利益あげてるけど」

瑠璃たちがため息をつく横で太一が笑った。

「とりあえずさ。この二店舗とは話をして、

一旦持ち帰ってきた。

これじゃ社長が言ってもしょうがないから………

奥(優子)さんに話を通して、

そのあと瑠璃ちゃんと一緒に行くことにしよう。

それでいい? 」

春木が太一を見ると、

「そうだね~こういうことは奥さんの方が得意だから、

聞いてみてください」

と笑った。

春木はあきれ顔で笑った後、

「そうそう。さっき商店街の所で、

瑠璃ちゃん立ち止まって何見てたの? 

声かけようと思ったんだけど、

俺自転車だったから、

駐輪場に返しに行くところで通り過ぎちゃったんだよね」

と振り向いた。

「あぁ、ケーキ。

フォスのお誕生日が来月だから、

お誕生日会を開いてあげようと思ったのよ。

あの子、そういうのも初めてだから」

「そうなの? だったらみんなでお祝いしようよ。

俺、いいこと思いついた」

太一の笑顔に皆が怪訝そうな顔で見つめた。


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八雲翔
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