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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第一部ー19ー
「ゾンビ少年と赤い神聖ばあ」
休憩室に戻ると、
真紀子、源じい、田所は自室に戻ったようで、
ソファーに寝転がっていたのは安達が増えて若者三人だった。
コーナー型の大型ローソファーなので、
それぞれが大の字になって気持ちよさそうに寝ている。
向井は空いてる場所に腰を下ろすと、
冥王から渡された雑誌をめくった。
内容は―――
時は大正。
突如現れたゾンビに人々は襲われ、
大パニックになっていた。
その時登場したのが二人の戦士。
赤い羽織りを着た老婆とゾンビの少年。
少年はゾンビに襲われたものの、
何故かゾンビにはならず人間の姿のままの死人として、
ゾンビから人々を守っていた。
そしてもう一人。
老婆もまた、
魔を避ける特別な赤い羽織りを着て、
少年とともに戦っていた。
この二人の謎を含みながら話は続いていくのだが、
何せ短編なので重要なところは分からず、
続くような終わり方になっている。
なんだかよくわからないが、
確かに少し気になるかもな。
向井がそんなことを考えながら読んでいると、
上からのぞく新田の姿があった。
「なに? 漫画?
それ冥王が毎月楽しみにしてるやつですよね」
「ああ、どうもこの中の物語の一つが、
気になっているらしくてね。
面白いから読めと渡された」
「で、面白かったですか? 」
新田はそういいながらソファーをまたいで横に座った。
「読んでみる? 俺にはよくわからない世界だけど、
俳優の新田君なら演じてみたくなるような、
話かもしれませんよ。
ただ主人公がおばあさんとゾンビ少年なんですよね」
「それはまた変わった設定ですね」
新田は雑誌を受け取ると読み始めた。
真剣に読んでいる新田を横目で見ながら、
向井はテーブルに残っていたコンビニのおにぎりを手に取った。
真紀子さんが片付けてくれたようで、
残ったサンドイッチやピザにはラップがかけられていた。
おにぎりを食べていると、
新田が雑誌を見ながら言った。
「ふぅ~ん。この続きってあるんですか? 」
「やっぱり気になる? 」
「含みのある終わり方なんで、
この後どうなったのかな? って」
「これね、今派遣霊の一人がアシスタントで、
続きを手伝ってるんですよ」
「へえ~」
「新田君は恋愛ものが多かったから、
こういうのってどうなのかな」
「いや、面白いですよ。
少年の年齢を少し上げてくれるなら演じてみたいです。
ただ今は役者よりこの仕事の方が、
やりがいはあるかもしれませんけど。
だって映画みたいじゃないですか」
「まあ、確かにね」
二人は同時にケラケラ笑った。
その笑い声に寝ていた三人が目を覚ました。
「なに? 」
牧野が目をこすりながら起き上がった。
「あっ、ごめん。起こしちゃった? 」
新田が言うと、
「何話してたの? 」
早紀が寝転がったまま聞いた。
「俳優の時より今の方がドラマみたいだって話」
向井が言った。
「あ~それ、なんか分かる~
俺も死んでるのに、
死んでるって実感があまりないもん。
映画を見てるみたいな感じ?
悪霊に囲まれてるときだけ、
やっぱ俺死んでんじゃん? みたいな? 」
牧野が両手を上げて伸びをした。
「そういえば……俺が大きな役をもらったのって、
牧野君の年くらいだったな。
あの時はちょうど前厄でさ。
事務所が厄落としをするのしないので、
随分揉めたんだよなぁ~」
「ああ、役者さんはそういいますよね」
「何かあるの? 」
安達が聞く。
「役を落とすっていって、
俳優さんは厄落とししないのよね」
「まあ、迷信だけど俺は自分というより、
作品に関係している人に何かあったらめざめが悪いので、
きちんとやりましたよ」
「厄年って……死んでてもやったほうがいいのかな? 」
牧野がふと考え込むように言った。
「死んでるんだから厄なんてないでしょ? 」
早紀が言うと、
「ん~でもさ、悪霊にやられちゃうとか……?
俺、生きてれば二十三歳だし……そろそろ厄じゃん? 」
「だったら、あたしだって生きてれば前厄? 」
「ばばぁだな」
「うるさい!! 」
早紀が牧野にクッションを投げつけた。
「そういえば……田所さんは死んでるのに、
厄落とししたとかしないとか?
何か話を聞いたんだけど忘れてしまったな」
「そうか、田所に聞けばいいんだ」
牧野はサッと立ち上がると、
「消去課にいるよね」
部屋を出て行った。
「ちょっと待ってよ。あたしもいく~」
早紀もそのあとを追っていく。
「厄落としなんて気の持ちようだと思うけどね。
俺も腹減ったから、なんか食べよう」
新田がテーブルからサンドイッチを取ると口にくわえた。
その横で安達がTVを付ける。
画面からオープニングが流れるのを見て、
ああ、これがそのアニメか……
安達に買ってきたアニメグッズを思い出した。
向井が冷蔵庫からビールを持ってくると新田に渡した。
「飲む? 」
「有難うございます」
新田がプルトップを開けた。
真剣になって見ている安達からTV画面に視線を移すと、
「あっ、このアニメの原作。
俺にオファーがきてたんですよ。
この前、映画化されたでしょ。
まあ、死んじゃったんで結局出れませんでしたけど」
「そうなの? 」
向井が聞くのと同時に安達も振り返った。
ヒーローでも見るような憧れのまなざしだ。
「そんな目で見られてもね。
生きてれば主演だったのに、
ちょっと惜しかったかな。あははは」
新田がビールを飲みながら笑った。
向井もそのアニメを見ながら何気に時計を見る。
「最近はアニメも夜中なんですね。
明日も忙しいし今日は疲れたから……
ここで寝ちゃおう!! 」
ビールを飲み干すとソファーに寝転がった。
「なんか学生時代を思い出しますね」
新田も横になると、
そのまま流れているアニメを見た。
「死んでここに来た時は、
この先どうなるんだ? と不安だったんですけど、
今は死人の人生も悪くないかも……と思ったりね」
「まあ、死んでしまったものは、
どうしようもないですからね」
向井も自分の死を、
客観的にとらえられるようになっていた。
「そうですよね」
二人はしみじみとそんなことを言いながら、
アニメを子守唄にいつの間にか眠りについていた。
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