【連載小説】『独り日和 ―春夏秋冬―』その22
「アニキの話」
「先日その不動産屋から、
シュートが引っ越したって聞いて、
慌てて居場所を探したんですよ。
そしたらここにいるって分かって」
「私の家を貸したんです。
孫………まぁいいか、その耕太と一緒に暮らすことで、
許可をしました。
バイト先が一緒で気も合うみたいで」
「そうですか。安心しました」
彼は一口カップに口を付けると口を開いた。
「うちはね。昔ながらの古い体質の一家でね。
解散の時には組員も少なかったんで、
俺が引き受けたんです。
一応飲食店を何件か持っていたので、
それがうちの稼ぎだったんですよ」
「あらまぁ」
冬は驚くと笑った。
「組員も森の石松が何人もいる感じで」
「それは大変」
「ですよね」
二人は顔を見合わせ笑った。
「シュートに初めて会ったのは、
公園でした」
十二年前――――――――
店を閉めて帰宅する途中、
男は児童公園で一人弁当を食べる少年が気になり、
声をかけた。
「おい、坊主。
こんなとこで弁当か? 親は? 」
少年はその声に顔をあげた。
十六歳のシュートがそこにいた。
「親はいない。ばあちゃんは死んだ」
「そうか。家は? 」
「そこのボロアパート」
そういって公園横の小さな二階建てアパートを指さした。
「一人か? 」
「そう。ばあちゃんの介護してたから、
大家さんが家賃だけ滞納しなきゃ、
いていいって言ってくれた」
「そうか。仕事は? 」
「その先のコンビニ」
シュートはぽつりと言うとため息をついた。
「俺さ。何のために生きてると思う? 」
「神様が生きろって言ってんじゃないか? 」
「そうなのかな」
シュートはそういうと弁当を食べ始めた。
「なんでこんなところで食べてんだ?
家があるのに」
「あそこにはばあちゃんがいるから」
「!! 」
男が驚いてシュートの顔を見た。
「俺………はっきり見えるわけじゃないんだけど、
幽霊感じられるんだよ。
きちんと葬式したのに成仏できてないのかな。
仏壇もないし」
「………お前名前は? 俺は藤堂シンだ」
「春川シュート」
「お前、俺んとこ来るか? 」
そしてシュートは行儀見習いとして、
加藤一家の一員となった。
「俺は無責任に、
おばあさんの介護の経験があると聞いて、
丁度親父が倒れた時だったんで、
利用したんです。
彼奴の十代~二十代を奪ってしまった責任が、
今になって重くのしかかってね。
だからですかね。少しでも今を享受させてやりたい」
藤堂は静かに笑った。
「ちょっといいかしら。
あなたは何故、この世界に入られたの?
お話聞いていると、
もっと違う世界もあったように思うのだけど」
「あぁ………俺は親不孝者なんですよ。
ずっと勉強、勉強、勉強で来て、
大学に受かった時に燃え尽き症候群というんですか。
もうそこがゴールみたいになってしまって。
そんな時に親父に出会って、
流れで組員になったんです。
親父見てたら危なっかしくて、
ここはいずれ潰れるだろうなって予感はあったんですよ」
藤堂が笑った。