【連載小説】『独り日和 ―春夏秋冬―』その4
「椿のため息」
はあ~疲れが取れないなぁ――――
椿は晴れ渡る空を見上げた。
パン工場で夜中のパート勤務なので、
時給はいいが、
夜間保育にお金がかかる……ふぅ……
子供の手を引いて公園を歩きながら、
ため息をついた。
「ママ、どうしたの? 」
「ごめんごめん。何でもない」
子供は些細なことでも、
大人の気持ちを察知してしまう。
気をつけないと。
椿はにっこり笑った。
「あっ、ワンちゃん!! 」
「ほんとだ。お散歩してるね」
みるとおばあさんと犬と猫の姿があった。
時々公園で、
シートを敷いてくつろいでいる姿を見かける。
「ねえ、僕ワンちゃん触りたい。行ってもいい?」
「いいけど、触ってもいいですか? って聞いてからよ」
「うん」
そういうと芝生の中を走りだした。
冬は春と小春とのんびり公園内を歩いていた。
今日は梱包で家を出るのが遅くなっちゃって、
シートでのんびり出来なくて残念。
「ベンチに座っておむすび食べよう」
キッチンカーで買ってきたので、
芝生の中のベンチに腰掛けた。
春と小春もベンチ前の芝生に横になり、
気持ちよさそうだ。
冬が紙袋を探っていると、
前方から四、五歳の男の子が走ってきた。
「あの、僕ワンちゃんをなでなでしたいです。
触ってもいいですか? 」
あら、なんてお行儀のいい子。
冬は笑顔を見せると、
「どうぞ。優しく触ってあげてね」
それから春に声をかける。
「お兄ちゃんがお友達になりたいんですって」
男の子は嬉しそうに春の背中を撫でた。
「凄い。ふわふわ~
この子ラブラドゥードゥルっていうんだよね」
「よく知っているわね」
「僕、ワンちゃんのお写真がいっぱい載ってる本、
ママに買ってもらったの」
「ワンちゃん好き? 」
「うん。ワンちゃんとネコちゃんのお名前何ですか? 」
「ワンちゃんは春。ネコちゃんは小春っていうのよ」
「春? 僕も陽斗っていうの」
「あら、偶然」
冬は驚いて笑った。
すると少し遅れて四十歳前後の女性がやってきた。
陽斗君の母親かしら。
清楚で控えめな感じの女性だ。
「すいません。この子がワンちゃんに触りたがって。
ご迷惑じゃなかったですか? 」
「気にしないでください。
しっかりしたお子さんですね」
「ねえ、ママ、この子も春っていうんだよ。
ネコちゃんは小春。僕と同じハルなの」
陽斗は少し興奮気味に笑顔で報告した。
「そうなんですか? 」
「ええ、私もびっくり。
この子たちは陽斗君とお友達になる、
運命だったのかもしれませんね」
二匹は陽斗に撫でられて尻尾を振った。
「あっ、そうだわ。
お二人はお昼もう食べたかしら? 」
「お昼? 僕お腹空いた」
陽斗が母親を見上げた。
「だったらちょうどいいわ。
もし嫌じゃなかったら、
おにぎり食べる? 」
「おにぎり? 」
陽斗の顔がきらきらと輝いた。
「裏の駐車場にお昼頃キッチンカーがきてるの、
ご存じかしら」
「ここって、裏にも駐車場があるんですか? 」
「そうなの。意外と知らない人多いのよね。
そこにね。キッチンカーが日替わりで来てるの。
今日はおにぎり屋さんが出店されてたから、
買ってきちゃった」
冬はくすくす笑った。