【連載小説】『独り日和 ―春夏秋冬―』その13
「嬉しいお客様」
冬は松子の喫茶店でコーヒーを飲みながら、
「シュートくんも可哀想に。
耕太にいいように連れまわされてるわよ」
と笑いながら話をしていた。
「あの子兄妹いないし、
お兄ちゃんができて嬉しいんじゃない」
美幸も笑うと、
「冬さんはいつこっちに戻るの? 」
と聞いた。
「ん? 仕事も捗《はかど》るし、
もう少し住みたいなって思ってる。
年取ると賑やかな場所って疲れるから、
静かで落ち着くの」
「そう? 私はここの方が落ち着くけど」
松子がカウンター越しに話す。
「すいませ~ん」
「は~い」
客の声に美幸が走っていった。
「それに向こうでもお友達出来たし」
冬が笑った。
「あら、凄いわね。その年で新たにお友達出来たの? 」
「そう。若いお友達がね。
シュートくんだってそうでしょう」
冬は珈琲を飲みながら松子を見た。
――――――――
冬がいつものように公園で本を読んでると、
「冬さん~」
自分を呼ぶ声に本から顔をあげた。
「あら、花華さん。パートの帰り? 」
「はい。これ一緒に食べません?
今コンビニで買ってきたんですけど、
この時間ならいるかなと思って」
花華は再就職が決まらず、
今はドラッグストアでパートをしていた。
時々公園に来ては冬と笑って話していた。
「この辺りってドラッグストアが多いじゃないですか。
なので登録販売者の資格を取ったんです。
勉強なんて何十年ぶりで疲れました~」
両親は弟夫婦と暮らしているので、
実家にも帰りづらいし、
出来ればここで暮らしていきたいと言った。
花華は元々企画会社で、
小さな店舗のプロデュースをしていたそうだ。
その経験を活かして、
いずれ自分のお店が作れたらと言い、
最近は冬の工房に来て、
小物作りを教わっていた。
「雑貨って好きなんですけど、
自分で作るって発想がなくて。
でも冬さんの鞄を見て、
手に取って楽しくなるような小物を作って、
お店に並べられたらなって。
その時は冬さんの鞄も飾りたいです」
花華はそういって、
焼き立てのカレーパンを頬張った。
冬はそんな花華を嬉しそうに見ていた。
――――――――
それから時間が過ぎ去り、
以前公園で出会った椿と陽斗が、
偶然に冬の工房を訪れた。
「陽斗~いきなり走らないの。
車が来たら危ない………」
椿がそういって陽斗の手を取ると、
「ママ、あれ」
と指さす先に春と小春がテラス戸からこちらを見て、
尻尾を振る姿があった。
「春~小春~」
陽斗が庭に入って行き、テラス戸をのぞいた。
「ちょ、ちょっと陽斗、勝手に人様のお家に」
椿がそう言ったところで冬がテラス戸に姿を見せた。
二人の姿に驚くと笑顔になり、
「ちょっと待ってて」
というと玄関から出てきた。