【連載小説】『独り日和 ―春夏秋冬―』その14
「冬の工房」
「こんにちは~」
陽斗が笑顔で冬の方に駆け寄っていく。
「あら~嬉しい。遊びに来てくれたの? 」
冬が屈んで陽斗を見た。
「すいません。お散歩してたら春ちゃん達を見つけて」
椿が頭を下げて近づいた。
「あら、偶然なの? もしかしてこの辺りに住んでるの? 」
「いえ、近いと言ったら近いですけど、
この先の大通りを渡った先の住宅地です」
「まぁ」
冬が笑った。
「ここに何年も住んでるのに、
この前キッチンカーの事も知らなくて。
だから陽斗とお天気もいいから散策しようと、
この辺りをお散歩してたんです」
「そうだったの。お時間ある? 」
「えっ………大丈夫ですけど」
「だったらお茶しない?
私もちょうど休憩しようと思ってたのよ。
陽斗君も春と小春と遊ばない? 」
「遊びたい。ママ、いいでしょう」
陽斗が母親を振り返って言った。
「お邪魔じゃないですか」
「大丈夫よ。一人でお茶したって楽しくないでしょ。
上がって頂戴」
冬はそういうと部屋へ通した。
「お邪魔します」
二人は広々としたログハウス風の家に、
わあ~とため息をついた。
「素敵ですね」
椿が両手を口に当てて笑顔になった。
「何もないでしょう。以前住んでいた人は、
工房兼住居に使っていたんだけど、
坪数も少ないからファミリー向きじゃないでしょう。
場所も場所だから売れなくて、
それで私が安く譲ってもらって助かっちゃった。
どうぞ。好きなところに座って。
今お茶淹れるわね」
冬はそういうとキッチンに向かった。
「お構いなく」
椿はそういいながらソファーに座り、
テラス戸から庭を眺めた。
陽斗は春たちと楽しそうに寝転がって遊んでいた。
コンパクトなキッチンに、
階段の少ないスキップフロアがある。
奥の部屋が仕事場なのだろう。
「陽斗君は林檎とミカン、
どっちのジュースがいい? 」
「僕、みかんが好き~」
陽斗が冬の方へ歩いて行った。
「こら、陽斗。お行儀悪いよ」
椿の注意に、
「いいのよね~私が聞いたんだから」
そういうと二人で楽しそうに笑った。
陽斗は夜間保育だから、
どうしてもお友達が少ない。
学校に上がる年になったら、
もう一つパートを増やさないとな。
椿はそんなことを思いながら、
近づいてきた小春を膝に乗せて撫でていた。
「はい。どうぞ召し上がれ」
冬は椿の所に来るとテーブルにジュースを置いた。
「このジュースとクッキーは私の手作り」
「凄い~」
陽斗は笑顔でグラスを見た。
「椿さんもどうぞ。ウェットティッシュは、
テーブルに乗ってるから好きに使って。
春と小春はこっちのお皿におやつ入れたからね」
冬がそういうと小春は椿の膝の上から降り、
二匹は食事台の方へ歩いて行った。
「美味しい」
椿と陽斗はジュースを飲んで冬を見た。
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