【連載小説】『独り日和 ―春夏秋冬―』その10
「霊媒師?シュート」
「子供の頃から霊感が強いだけで、
見えるわけじゃないよ。
ただ、人より鋭いだけかな」
「いや、ホントすげえんだよ。
俺が金縛りで動けなくなったときなんか、
シュートさんが横に立っただけで、
金縛りが解けたんだからさ」
「ふぅ~ん、
あなたはそんなに怖いバイトをしてたのね」
「家賃が高いからね」
「あら、あなたが自分で払うって言ったんでしょ」
「分かってるよ」
「私だって固定資産税や火災保険を、
払わなきゃならないんだから。
古くても都内の一軒家よ」
そんな二人のやり取りを黙って聞いていたシュートが、
「耕太は冬さんの家に住んでるのか? 」
「えっ? あぁ、そう。
冬さんの持ち家を借りて、
家賃三万払ってんの」
「都内戸建てで三万て格安じゃん。
俺なんかバイト料の殆どが家賃で消えてるからな」
「あら、大変ね」
冬が言った。
「まあ、家借りるのも俺の場合は大変だから、
貸してもらえただけラッキーなんだけどね」
シュートは明るく言い笑った。
「そうだわ。だったら耕太と二人で、
うちの家に住んだら?
もちろん家賃はもらうけど、三万でいいわよ」
「えっ? いいの? 俺としては助かるけど」
「耕太がいいなら、私はかまわないわよ」
「俺はいいけど、
会社までバイクで二〇分くらいかかるよ」
「えっ? 場所この辺じゃないの? 」
「東京だよ。俺、このバイト割がいいんで、
引き受けて東京から来てんだもん」
「そうか。大学も東京だもんな」
「現場がこっちの時は、
冬さんの家に泊まってるけどね。
でも、駅まですぐだし、
電車に乗っちゃえば会社の最寄り駅まで十五分だよ」
「それ、凄く魅力的」
シュートが驚いた。
「だったら耕太と同棲、あっ違った同居したら? 」
驚く二人に笑うと冬が言った。
「本当にいいの? 俺としては嬉しいけど」
「いいわよ。ただしルールは守ってもらうわよ」
「ルール? 」
シュートが聞く。
「ゴミ出し守るとか、
大勢で騒いで、
近所迷惑になるようなことをしないとか、
あと光熱費や生活費は自分達で折半してね。
古い家だから丁寧に扱ってくれれば、
まぁ、そんなルールかな。
それは耕太に言ってあるから、
二人できちんと守って生活してくれるなら、
家賃三万で貸してあげる」
「だったら次の更新止めて、
冬さんのお言葉に甘えさせてもらう」
「だったらさ、明日の幽霊ビル東京じゃん。
これから一緒に家までくる?
で、泊りなよ。
それで決めたら? 」
耕太はシュートに言うと冬を見て、
「冬さんも一緒に来ない?
ばあちゃんも話がしたいのに、
電話にも出ないってぼやいてたし」
と言った。
「そうね」
「そうと決まれば俺のバイク、
冬さん家に置いてくる。
車で来てるよね」
「だってこの子達と一緒だもの。
車よ」
「じゃあ、ここで待ってて。
帰りは俺が運転するから」
耕太はそういうと、
あっという間に公園を駆けだして行った。
シュートが呆気に取られて笑った。
「耕太って行動早いね」
「本当」
冬もフフフと笑った。
――――――――
冬の実家は東京の下町にある。
昔に比べ街並みもずいぶんと変化した。
商店街もかなりモダンになり、
冬の家はそこを抜けた先にある。
最寄り駅まで歩いても五分ほど。
立地条件もいい。
ただし、築年数が古いので、
自分だけだし、
売って処分しようかと最初は考えていた。