【連載小説】『独り日和 ―春夏秋冬―』その26
「雑貨店」
「どうせなら小さなカフェを併設したら、
もっと人来るんじゃないの? 」
「だったら僕が耕太君の所で修行して、
ここにカフェを作ればいいんだ」
耕太の話に陽斗が笑顔を向けた。
「あれ? 陽斗君はデザイナーになるんじゃなかったの? 」
陽斗は現在、
自分がデザインしたウェアを販売している。
椿のショップでブランド展開しているので、
将来はデザイナーになると言っていたはずだ。
花華がビックリして聞いた。
「それも一つなんだけどさ。
最近、耕太君のお店で珈琲の淹れ方教わってて、
これが楽しいの」
「えっ? そうなの? だから休みの日は出掛けてるんだ。
友達と遊んでるのかと思った」
花華が笑う椿を見て言った。
数年前から花華はアパートを引き払い、
椿の家の一室を間借りしていた。
家賃を安くしてもらった分、
光熱費などの負担を少し多めに払う事で、
住まわせてもらうことになった。
「ほら、最近は夕食後に珈琲淹れてくれるでしょ? 」
「あぁ、そういえば時間をかけて、
美味しい珈琲出してくれるわね」
花華が椿を見た。
「耕太君にはお世話になっちゃって」
「どうってことないよ。
吞み込みも早いし、ラテアートの基礎も訓練中なんだよな」
耕太が陽斗の肩に手を置いた。
「本格的に目指してるんだ」
花華の感心するような顔に、
陽斗は恥ずかしそうにへへへと笑った。
「これなら冬さんもあの世で喜んでんじゃねえ」
「私はまだ元気ですよ。
勝手に殺さないでよ」
後から入ってきた冬が耕太の頭を叩くと、
怒ったように言った。
「冬さん~」
嬉しそうに花華たちは近づいた。
冬と松子、美幸もやってくると、
「可愛らしいお店になったじゃない」
と感想を言った。
冬も松子も杖も付かずに元気に歩いている。
丁度一年半前だ。
「実は私もそろそろ、東京に戻ろうと思ってね」
「えっ? 」
冬の突然の言葉に花華と椿は驚いた。
二人は冬の家でお茶をしていた。
「なんで? ここでも問題なく暮らせてるじゃないですか」
花華が聞くと、
「ほら、運転もしなくなったし、
田舎暮らしは年寄りには不便でしょ」
「大丈夫ですよ。
何かあっても私が送り迎えできますし」
「有難う」
冬は花華に微笑んだ。
「春も亡くなって、今は老猫の小春だけでしょ。
耕太が六代目春をブリーダーさんから譲り受けたから、
向こうで一緒に暮らそうって言うのよ」
「ここはどうするんですか? 」
椿の言葉に、
「その事なんだけどね。
あなた達雑貨屋を開くって話してたでしょう。
だから嫌でなければここを二人に譲りたいのよ」
冬が言った。