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【連載小説】『独り日和 ―春夏秋冬―』その18
「新たな挑戦」
「毎回お菓子じゃない。私は苦手だから、
たまには違うものを頂戴って言ったら、
今度は沢山のコスメ」
「あら、いいじゃない」
冬がリップの箱を見ながら言った。
「確かにね。でも、若者向きのコスメが多いから。
このリップ、なんて言ったかしら………
有名な歌手が使ってて、
こっちじゃ手に入らないんですって」
「まぁ、嬉しい。真美子ちゃんにお礼言っといて」
「気にしなくていいわよ。あれは趣味が韓国だから。
じゃあ聞いたらお願いします」
「はい」
由香里はそれだけ言って、
椿たちに再度頭を下げると帰って行った。
冬がリビングに戻ってくると、
「冬さんはちゃんと地元に馴染めてて、
立派ですよね。
私はまだうまく話せなくて」
椿がため息をついた。
「無理をしないで自然でいいのよ。
程よい距離感で自分も心地よい空間にしておけば」
冬は笑うと言った。
「私もね。うまくやろうと頑張りすぎて、
結局倒れて、会社を辞めちゃったから」
「えっ? そうなの? 」
椿が花華を見た。
「そう。それで年取ってスキルないのに辞めたから、
もうどうにもならなかったの。
十社よ。合計十社落ちたの」
花華が笑いながら珈琲を飲んだ。
「そんな時に冬さんに会って、
背中を押された感じ。
で、資格取って今はパート。
資格のお陰で少し時給が高いからホッとしたんだ。
アパートも駅に近いと高いでしょう。
保証人なしで借りるとなると、
月収が一定給必要じゃない。
この近くだと安い物件もあるから、
私の給料でも借りられた」
「凄い………」
椿が驚きの顔になった。
「長い事おひとり様で会社員してると、
色々あるのよ。
今はそれがない分ストレスもない」
花華はそう言うと、
「私からしたら子供を一人で育ててる椿さんの方が、
凄いって思うわよ」
「なんかそういわれたら………
私も本気で縫製作家目指そうかな」
椿の瞳が強い意志を持ち始めた。
「年取ってるって言うけど、
七十のおばあさんから見ると、
二人はまだキラキラしてて羨ましい」
冬が笑った。
「私も頑張らないとね」
「えっ? 」
「冬さんのそのバイタリティ、
少し分けてもらいたい」
花華と椿は驚きの表情をすると、
三人は一緒に笑った。
――――――――
それからしばらくして、
三人は東京で開催されるクラフトマルシェに申し込みをした。
椿はドッグカフェからのオーダーが順調になり、
夜中の工場務めをやめた。
「縫製の内職とオーダーだけで、
なんとか生活できそうだから」
保育園も週三日の所に入園できた。
「私の場合在宅勤務になるから、
一時保育の場所が見つかって安心しました」
椿が居間で冬とお昼を食べながら話した。
ここは椿の家で、
昔ながらの平屋だ。
台所の前に和室の居間。
部屋は三室。
庭も小さいがあるので、
洗濯物はそこに干してあった。
春と小春も庭に繋いで、
陽斗と楽しそうに遊んでいる姿を、
縁側を挟んで見ていた。
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