【連載小説】『独り日和 ―春夏秋冬―』その3
「番犬にならない春」
「冬さんは櫻で、私は花華で、
ワンちゃんとネコちゃんも春。
なんだか縁を感じます」
「本当ね」
冬もフフフと笑った。
「久しぶりに楽しいって感じました」
「それはよかった。
こんなおばあちゃんでよければ、
いつでも話し相手になるわよ」
「嬉しいです」
二人がそんな話をしていると、
「あ~いた~」
公園の入り口から青年が走ってきた。
「もう、家に行ったらいねえし。
ここかもと思って来てみて正解」
「あら? どうしたの? 」
「どうしたじゃねえよ。
一週間前にばあちゃんが電話したのに出ないし、
母さんがラインしたのに既読にもなってないし、
うちでは冬は孤独死してるって大騒ぎだよ」
「あらあら、ごめんなさいね。
電話は留守電にしてて全然チェックしてないの。
スマホも電源切ったままだわ」
「それじゃ、意味ねえじゃん」
青年は体を前に倒して息をついた。
「何か急用でもあった? 」
「別にないけど、
このところ連絡もないし、
心配になるだろ」
「オーダーが入って忙しかったから、
忘れちゃったのね。ごめんなさいね」
「無事ならいいんだけどさ」
「あの、オーダーって? 」
花華が冬に尋ねると、
「冬さん、バッグ作ってんのよ。
俺のこのバッグも……って、あなたは誰? 」
「ああ、この人はね、私の友達」
「ずいぶん年の離れた友達だね」
「あら、年は関係ないでしょ。
花華さんていうのよ」
「ハル? 春と一緒じゃん」
ケラケラ笑う青年を見て、
「あの、もしかしてこの人がキモイ発言の…? 」
「そう、耕太」
「何だよ。キモイって」
「何でもない。何でもない」
冬はそういうと、花華と一緒に笑った。
「そうだ、今日俺、冬さんちに泊まるから」
「あら、東京に戻らないの? 」
「引っ越しのバイトが、
明日はこっちの地域だから」
そんな話をしていると、
春と小春もお昼寝から目が覚めたようで、
伸びをして起きだした。
「こいつら、番犬にはなんねえな」
春は耕太の姿に驚いた後、
しっぽを振って抱きついた。
その様子を見て、
「じゃあ、私もそろそろ」
花華もそういうとシートから立ち上がった。
「あっそうだ。これ私の名刺。
ショップのメールアドレスだけど、
いつでも連絡して。
仕事が詰まっていないときは、
大抵この公園にいるから、
いつでも声をかけてね」
「有難うございます。今日は楽しかったです」
花華は名刺を受け取ると、
お辞儀をしてその場を離れた。
「じゃあ、私達も帰りましょうかね。
耕太、このシート畳んでカートに乗せて。
あとクッションも」
「人使い荒いな」
背後で聞こえる二人のやり取りに、
花華はくすくす笑った。
もらった名刺には、
ワンちゃんや猫ちゃんのイラストに、
足跡も描かれている。
「可愛い」
お守りのようにぎゅっと胸に当てると、
空を見上げた。
いいことがありますように――
冬と花華も新たな展開へと進んでいくが、
それはまたの機会に――――