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【連載小説】『お喋りな宝石たち』~竹から生まれし王子様~第五部  第七十五話「一通の封筒」

第七十五話「一通の封筒」

「フォス。いらっしゃい」

瑠璃は呼ぶと、自分の横に座らせた。

「お客様に挨拶できる? 」

「こんにちは」

フォスが頭を下げると、

「いい子だね。おじさんのお家にも、

君と同じくらいの男の子がいるんだよ」

「僕ね。幸人君てお友達がいるの」

フォスが笑顔で話した。

「そう。お友達ができたんだ。

おじさんの子は孝之って言うんだ。

お友達になってもらえるかな」

「うん」

フォスが頷くのを見て瑠璃が言った。

「このおじさんとお話があるから、

向こうで静かに遊んでてくれる? 」

「分かった」

フォスはそういうと、

ソファーを降りて和室に行った。

ブロックで遊ぶ姿を見て、

米倉が一通の封筒を差し出した。

瑠璃が怪訝そうに見ていると、

「実は僕の父が祖父から手紙を預かっていたそうで、

今日はそれをお届けに参りました。

本来ならすぐにお渡ししなければいけなかったんでしょうけど、

エリスさんもお亡くなりになっていたので、

父が渡さない方がと持っていたそうです」

瑠璃はその封筒を手に取るとじっと見た。

「中身は見ていませんので分かりませんが、

あなたのお父様の育ての親である私の大伯母、

祖父母の姉に当たる静子の手紙だそうです」

瑠璃はその話に手元から顔をあげた。

「あなたのお父様が養子になられた話は御存じですよね」

「はい」

「大伯母は未亡人で夫は大戦で戦死したそうです。

エリスさんと静子は親友で、

戦後幼い子を抱え育てていたエリスさんと、

詳しいことは分かりませんが知り合ったと聞きました。

その流れで私の祖父母、伍代さんのご両親とも、

家族ぐるみのお付き合いになったそうです」

米倉はそこまで話、

夢中になって遊ぶフォスを見てから、

再び話し始めた。

「父は最初あなたの事を知り、

手紙を渡すか悩んだそうですが、

あなたがエリスさんの存在も知らなかったと知り、

手紙は渡さないほうがいいと思ったんだそうです。

その手紙も結局エリスさんに出さなかったようですし、

大伯母も考えた末、手元に置いたのかもしれません。

ただ、伍代さんから、

エリスさんの遠縁の幼子をあなたが引き取ったと聞き、

当時の大伯母の事が頭に浮かんだのでしょう。

これを渡してくれと言われました」

「そうですか」

「あなたにとって辛い話が書かれているかもしれません。

反対にただの親友に当てた手紙かもしれません。

それでも過去を知る助けになれば、

大伯母も喜ぶと思いますよ」

「有難うございます」

瑠璃は頭を下げた。

「では僕はここでお暇します」

米倉は立ち上がると、

「フォス君、今度はおじさんのお家にも遊びにおいで」

と声をかけて瑠璃の家を後にした。

米倉が帰った後、

瑠璃はしばらくの間封筒を見つめていた。

封筒は大事にしまわれていたのか、

黄ばみも少ない。

瑠璃は一度フォスを見ると、

妖精たちと楽しそうにブロックを積み上げている姿に、

小さく笑った。

キッチンに行くとハサミで封を切り、

中身を取り出した。


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八雲翔
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