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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第一部ー24ー

「ダンサーオーデション」

翌日向井は死神課のカウンターにいた。

ダンサーオーデションが入ったので、
死神の貸し出し申請に来ていた。

かなり待たせてしまったが、
やっと本人希望の舞台オーデションを見つけた。

ダンサーが集まる公園で、
脇で一緒になって練習している姿を向井も見てきたので、
未練なく来世に進んでもらいたい。

出来レースではないので、
オーデションに受かれば大舞台で踊れる。

だが、ここで問題が一つ。

それが憑依できる死神がいるのかだ。

死神能力が試される案件の一つになるので、
選ばれた死神にとっても責任重大だ。

そもそも死神は冥王から作られているので、
基本、冥王好みの死神になる。

前冥王は可愛い姿の死神に偏りがあったそうだ。

当時は今のような体制ではなかったので、
死神は冥界で働ければいいという感じに数が揃えられていた。

現冥王はその組織を作り直したので、
死神も可愛い系、美形、スポーツマン系など、
二十代~三十代を中心に揃え、
冥界と人間界で動きやすい見た目に変えた。

漫画好きの冥王らしいキャラクターが多いのかもしれない。

向井がカウンターに寄りかかって待っていると、

「向井さん、今空いてる死神だとこのあたりですね」

死神課の職員がきて端末を見せた。

セイもまた死神なのだがデスクワーク専門なので、
冥界での仕事しかしない。

「えっ? これしかいないの? 」

向井が驚くと、

「昨日倉田さんが来てたでしょ。
あれ除去課のヘルプに使う死神の申請許可にきてたんですよ」

「あぁ、そうなんだ。
じゃあ、冥王に言って、
もう少し死神増やしてもらおうかな」

「あぁ、それダメだと思いますよ」

「なんで? 」

「この前も新田さんがその話をしたら、
禿げるからヤダって言ったそうですから」

「肝が小さいなぁ」

「で、今回はどんなのが必要なんですか?  
男? 女? 職人系? アート系? 」

「男性のダンサーなんだけど憑依後、
身体が馴染めばOKだから。
過去にダンス経験のある死神はいる? 」

「ダンスね~えっと……フラダンスと、
日舞の経験あるのがいますよ。
あっ、でも男性なんですよね。
そうなると………
社交ダンスで大会に出たものがいます」

「社交ダンスか………」

「探しているダンスってどんな種類なんです? 」

「ストリートっていうの? 
ヒップホップとかハウスダンスとか」

「ストリートダンス!? 
僕、バトルが好きなんですよね~♪  
休憩室の大画面で見てると、
迫力あってカッコいいんですよ!! 」

ここにもTV撤去反対派がいるのか。

向井は下を向いて笑った。

「酒井くるみっていう子なんだけど……」

「えっ? くるみ君? 」

セイの顔が驚きに輝いた。

「なに? 有名人なの? 」

「大スターですよ!! サイン欲しいなぁ~
ダンスバトルの世界大会で優勝してるんですから」

セイが興奮気味に言う。

「彼が飛行機事故で亡くなったってニュースが流れた時、
僕も泣いちゃいましたよ。
優勝して帰国するのに乗った便だったんですよね。
サロンで見かけなかったから、
光の渦で消去課にいちゃったかなって思ってたんですよ~」

「物静かな子なんで、
最初はダンスの舞台に立ちたいって言われたときには驚いたんだけど、
それほどのダンサーだったんですね。
心残りも当然か」

向井は死んでも踊ることに向き合っている、
十七歳の青年の姿を思い出しながら言った。

「とりあえずその社交ダンスの彼? 
君から見てストリートに体の方はついていけそう? 」

「体力的には大丈夫ですよ。
ただ、ダンスの質が違いますから、
くるみ君が憑依後に馴染めれば全く問題はないと思います。
踊るのは彼ですからね」

「なるほど。で、その子はどれ? 」

タブレットをフリックしながら向井が聞く。

「えっと、これこれ、ティン。
年齢も一応二十二歳だから丁度いいんじゃないですか?
少し前まで西支部にいたんですけど、
中央に戻ってきたんで向井さんはまだ会っていないですよね」

「そうですね」

見た感じ、スタイルも顔もモデル系。

これがストリートダンスを踊ったら騒がれそうだなぁ~

「じゃあ、彼がOKなら手伝ってもらえるかな」

「はいはい、ちょっと待っててくださいね」

セイが呼び出しをしている間、
向井は何をするともなくカウンターに背を向け窓の外を見ていた。

冥界の景色は何もない。

暗闇に明るい光が照らされているだけ。

晴れているのか曇っているのか雨なのか。

天気という概念がないので、
ここにいると時間が止まっているようだ。

しばらくするとセイがティンを連れて戻ってきた。

「一応簡単な説明はしておきました」

思っていたより小柄だが、
いかにもダンサーですという立ち姿と、
均整の取れたスタイルの綺麗な青年だった。

「健康的に焼けてるね」

向井が言うと、

「ひと月前までスケボーさせられてて。
ほら、あのスケボーの徳永選手?
彼が例の高難度のトリックを成功させないと、
成仏しないとか言ってたでしょ。
あれ、やっと成功して一週間前に消去課に行ってくれました」

「それは大変でしたね。ご苦労様でした」

「おかげでスケボーのスキルは上がりましたよ」

ティンが笑った。

「じゃあ、あとはくるみ君がOKなら憑依の方頼めるかな」

「はい、大丈夫です」

「今、サロンの方にいるんで一緒に来てもらえる? 」

「はい」

向井がティンと一緒に歩き出したところで、

「向井さん!! 貸し出しにチェック入れてください!! 」

セイが慌てて声をかけた。

「いけない、いけない」

向井がチェックしながらサインをすると、

「あと、くるみ君のサイン。
もらって来てください。お願いします!! 
セイ君へって入れてほしいです」

「わかった。聞いてみるよ」

「お願いしますよ!! 」

カウンターから身を乗り出していうセイに、
手を振るとサロンに向かった。


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八雲翔
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