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【連載小説】最終回『独り日和 ―春夏秋冬―』その27(完)

「春夏秋冬」

「だったら冬さんも一緒がいいです」

「有難う。
でも、もう八十にもなると大変でしょ。
あなた達はお店の為に資金を貯めていたでしょ。
それでここを改装したらいいと思って」

花華が涙ぐむ。

「そんな顔しないの。
越すって言っても、
高速乗るほどの距離でもないし、
車で三十分もかからないじゃない」

冬が笑った。

「そうですけど寂しいです」

椿が俯いた。

「それにね。あなた達のお店に、
私の鞄も置いてもらおうと思ってるのよ。
花華さんは前に言ってたでしょう」

「作家活動は続けるんですか? 」

椿の言葉に冬が笑った。

「続けるわよ。別にどこも悪くないし元気だもの。
ただ、前みたいに精力的には動けなくなっただけ。
実家の工房もそのままだから、
そこで作ってここに納品するつもり」

冬は珈琲を飲むと話を続けた。

「実家は耕太とシュートが未だに二人で住んでるし、
私の面倒も見てくれるんですって。
あと何年生きるか分からないけど、
体も動かなくなるだろうし、
ここからはあなた達が頑張って」

冬はそういって静かに幕引きをした。


そして一年後に、
二人はショップを開いた。

「冬さんのお陰でお店がもてました。
ネットショップも、
HPは耕太君のお友達に頼んで、
お洒落なサイトにしてもらったんですよ。
冬さんの鞄も既にsold-outが多くて、
納品お願いしなきゃって思ってたんです」

「あら、じゃあまだまだ死ねないわね」

「冬さんは僕が結婚するまで元気でいてよ」

陽斗の言葉に、

「じゃあ、最低でもあと十年生きなきゃな。
俺だって再婚するかもしんねぇし。
出会いなんて無限にあるからな」

と耕太が言い、皆が笑った。

「出戻ったと思ったら、
また冬の家に住んで何言ってんの。
シュートの結婚ならまだしも、
あんたはもう無理でしょ」

松子はあきれ顔で耕太を見た。

「そうだ。今日は六代目春と小春も来てるんだよ」

シュートはそういうと、車から二匹を下ろしてやってきた。

「老猫って言っても、
小春はまだ元気で自分で歩いてるからね」

春と小春は店に入ると、じっと店の空間を見つめた。

「何か分かるのかしらね」

冬が言うと、

「五代目春がいるんだよ」

シュートが優しい笑みを浮かべると話した。

「えっ? 」

皆の驚く顔に、

「成仏はしてるから大丈夫だよ。
春の思いが残ってるんだ。
楽しかった、幸せだったって思いがさ。
俺も今なら分かるんだ。
ばあちゃんが家にいたのも、
俺を心配してくれたその思いだってね」

シュートが言った。

「春にとってもここは歴史の一部なんだな」

耕太もそういうと静かに店の空間を見つめた。

「きっといろんな思いがあるのよ。
土地にも木にも。
そして今日からはまた、
新たな歴史が刻まれるのよ」

春夏秋冬。

季節は巡るが、
綴る歴史は毎年変わる。

冬は花華と椿を見て静かに微笑んだ。


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八雲翔
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