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はじめての100%グラスフェッド短角和牛出荷へ/Grass-fed01

こんにちは。畜産家の斉藤庸輔です。今日も岩手の稲庭高原で、短角和牛の100%国産飼料飼育と100%牧草飼育の二刀流構築に取り組んでいます。

この秋の終わりに、はじめての100%グラスフェッド短角和牛を出荷しました。出荷時の体重は約480kg、40ヶ月の未経産の雌牛です。

100%国産飼料飼育と100%牧草飼育

100%国産飼料飼育では、自家栽培とうもろこしを使用して100%国産飼料飼育を実現しています。放牧で育てる期間と穀物を主な飼料として与えて育てる期間を繰り返す「グレインフェッド」です。

一方、100%牧草飼育「グラスフェッド」と呼ばれ、牧草や干し草だけを与えて育てる飼育方法のこと。

それぞれの飼育方法によって、同じ品種であっても、肉質、脂の入り方、香り、味わい、栄養価のすべてが変わります。僕は同じ短角和牛でその両方に挑戦しています。

この異なる2つのアプローチ。不思議に思われる方もいるかもしれませんが、僕にとっては「僕自身が食べてみたい牛を育てる」という視点から決めた自然な2つの選択でした。

草を食んでのびのび育った牛を食べてみたい

思い返せば、グラスフェッド飼育をしてみたいと思ったのは、放牧地で牧草を求めて動き回る牛たちの姿を見るたび「牛の本来の姿」だと感じてきたから。

もう何年も前、世界の牛肉市場ではグレインフェッドが主流でありながらも、健康ブームやアニマルウェルフェアの観点でグラスフェッドの価値に注目が集まっている(特にニュージーランドやオーストラリアで広がっている)のを感じて、自然豊かな環境で放牧される牛の価値を再認識。

グラスフェッドで育った牛は、放牧地で自由に動き回りながら牧草や干し草を食べるため、運動量が多く、体が引き締まる。その結果として、赤身の割合が多く、脂肪分の少ないヘルシーな牛肉になると。ならばと、色々食べてみることに。

なかでも、グラスフェッドビーフで日本を健康に導くドクターの精肉店「saito farm」から取り寄せたお肉を初めて食べた時、その脂肪交雑の少なさと引き締まった赤身の美味しさに驚き、北里大学が手がける「北里八雲牛」やニュージーランド産のグラスフェッドビーフのすっきりと冴えたうま味に感動したことは、今でも覚えています。グレインフェッドとはまた違う、すっきりと冴えたあのうま味。

足腰が丈夫な短角和牛。夏は山で過ごし、本格的な冬が訪れる前に山の麓にある牛舎へと移動。

そして、放牧飼育に適した短角和牛なら、赤身自慢の短角和牛なら、空気も水も澄み渡り、冷涼で傾斜が厳しく健康的に登り降りをして過ごせる稲庭の土地なら、この土地の牧草のみで飼育することができたなら、短角和牛が本来持つ個性や特徴を存分に引き出すことができるはずだと思ったのです。

そういえば、地元の年配者たちが懐かしそうに聞かせてくれる話。
「昔は冬に山から下ろした牛が一番おいしかったね」
その頃の牛たちは高原で育ち、牧草だけを食べて育っていたんだとか。

おじいさんから託された子牛をグラスフェッドビーフに

グラスフェッド飼育を本格的に始めよう。そう思っていた矢先に受け取った、高齢の農家さんからの連絡。

「廃農することにしたから、牛を引き取ってもらえないか」

やって来たのは、母牛とそこにくっついた生まれたばかりの子牛でした。自然交配によって生まれ、母牛の乳を飲んでいる雌の子牛。おじいさんにとっては最後の子牛。僕に託されたこのかわいい子牛を、グラスフェッドで育てあげてみようと決めました。

廃農するおじいさんから託された子牛。

うちの短角和牛は「夏山冬里方式」と呼ばれる伝統的な方式で育てる。夏から秋にかけては稲庭の高原で放牧し、氷点下になる冬の間から春は牛舎で過ごすというサイクルです。一面に広がる放牧地は豊かな自然に囲まれ、牛にとってまさに理想の環境。短角和牛は骨が太く、力強い脚を持つため、高低差のある地形でも軽やかに歩き回ることができます。その運動が、健康でしっかりとした体をつくる助けになります。

標高1,078メートルの稲庭岳の山麓に広がる稲庭高原の放牧地。夏の間にこの草を刈り、乾燥させたものを冬の間も与えながら育てる。すべては牛が本来持つ個性や特徴を存分に引き出すため。

冬の牛舎でも牧草飼育に。牛舎での飼育では輸入飼料を中心とした穀物飼料を与えることが多い現代の日本の牛の飼育現場ですが、この「一頭目」のグラスフェッド短角和牛には放牧地の草で準備しておいた乾燥牧草のみを与え、牛舎から外にも出られるようにして、自然に過ごさせることにしました。

生まれたばかりの体重は30〜40kgほどでしたが、時間をかけてじっくり育てていくと、3年目には毛並みもふわりと豊かになり、短角和牛らしい風格が出てきました。

土地の香りと旬の味を届ける

穀物で育った牛と比べるとやや小ぶりですが、牧草を主食としてのんびりマイペースに育っているからか、飼い主だったおじいさんに似たのか、穏やかな性格の短角和牛の中でもさらに穏やかな気質に。それでも、月齢40ヶ月を迎えた頃には体重470kg以上にまで成長し、2024年の秋、ついに出荷の時を迎えました(未経産出荷)。

秋に出荷したいと思ったのは、美味しい草を好きなだけ食べられる放牧からそのまま送り出せるから。送り出すその日も、いつものように放牧地で草を食べ、自由に寝転んで過ごし、最後まで牛らしく。そんな姿を見せてもらえたことに、僕なりの感情もありました。

牛の味は、最後の日々をどう過ごしたかによっても大きく変わると僕は思っています。秋の放牧地の草を食べた味。あの牛は、そんな旬をまとっているはず。

季節ごとに異なる気候や牧草の風味が、そのまま肉質や香り、味わいに反映され、まるで「旬」を味わうような楽しみ方ができる、短角和牛が持つ本来の個性や特徴を最大限に引き出したこのグラスフェッド飼育の短角和牛を、ぜひ多くの方に味わってほしい。こだわりのある人にこだわりの意見を聞いてみたいと思っています。

はじめてのグラスフェッド短角和牛。味の報告はまた追って。

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