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1984年16歳の北海道旅行記(10) ~日本一の車窓と食堂車と泣きべそ

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前説

今回は、日本一美しい車窓と言っても過言ではなかった湧網線に乗ります。しかし、手元の手記にはその記述が少ない…。サロマ湖、能取湖、オホーツク海に感動したのは間違いなく、それを言語化できなかったからだと思います。写真も少ないですが、計呂地駅で鉄道員の後ろ姿を写したものがありました。何を感じて写したのか、今となってはわかりません。

網走からは食堂車付きの特急列車に乗り、最高の贅沢をします。そして到着した札幌。ススキノで泣きべそをかいているのは情けないですが、当時の何でもありの夜の繁華街の様子が感じられるので、そのまま記載します。

中湧別から、湧網線から石北本線経由で札幌に向かいます。

車窓日本一のローカル線・・・湧網線

4時30分頃、中湧別駅前で目覚めた。すでに日は昇っている。湧網線の列車はもう入線している。名寄本線の一番列車から乗り換えた鉄道ファンがたくさん乗っている。2両編成のうち、1両は回送だった。この湧網線はサロマ湖、能取湖、網走湖の水面ギリギリを走るため、日本一景色のいい路線として有名である。しかし、大赤字路線で、第二次廃止対象に入っている。計画通り廃止されたら、オホーツク側にある鉄道はすべて消えることになる。そうなっては大変だから、名寄本線では「生命線名寄線」といったポスターが至る所に貼られている。沿線には、まだ元気のある街だってある。

言葉では表せない絶景

5時3分。定刻に出発したディーゼルカーはのんびりと走る。突然、目の前にパーっとサロマ湖が広がった。日本で三番目に大きい湖。湖といってもオホーツク海とつながっている汽水湖である。水平線が見える。

左から名寄本線、湧別支線、そして湧網線

波ひとつない水面に朝日が反射し、キラキラしている。列車は水面スレスレ、それこそギリギリのところを走る。窓を開けて、この雰囲気を全身的な感覚で受け止める。これを表す言葉が浮かばない。

計呂地駅

佐呂間で5分止まり、営呂で18分止まる。上り列車と交換する。向こうも1両だけで、とてもかわいく見えた。ここで、あの周遊券に下車印を押してもらった。そのため、券がボコッと穴が開きそうになった。

北海道のローカル線ではどこでも見れた光景

営呂を出ると、オホーツク海と出会う。これが今回見る最後のオホーツク。サヨナラ……。やがて、サロマ湖を少し小さくしたような能取湖が現れる。右側には網走湖が見え、終点の網走に7時42分着。2時間半のローカル線の旅が終わった。

老朽特急「おおぞら号」

網走から乗る特急列車は函館行き「おおとり号」。老朽化したディーゼル車※1だが、貴重な食堂車付きの特急列車である。また、網走から函館まで660.8kmを10時間以上かけて走る、堂々たる長距離列車だ。これに乗ろう。

おおとり号に乗車

網走駅に入線してきた列車は、食堂車やグリーン車を含む7両編成。禁煙車は最後部の自由席1両のみだった。9時5分、定刻に出発。右手に網走湖を見ながら走る。アナウンスが入る。車内放送オルゴール※2が他の列車とは違うようだ。美幌、北見と停車する。北見では、3両の増結車がバックしてきて連結された。ここから列車は10両編成になる。

北見駅で増結。当時は増結車が必要なほど多くの利用客がいました

北見は大きな街で、東急デパートもある。人口15万5千人。出発するとおもちゃのような家が見える。北海道の新しい家はどれも同じ形をしていて、屋根の色だけが異なるというものが多い。そして形はどこかスイス風。無駄のない作りの家で、本当に積み木のようだ。

妄想恋愛小説の舞台、留辺蘂

留辺蘂に着く。地図で見ると山間の何もない駅だが、特急や急行が停まる。この駅はよく見ておかなければ。何故なら、今、書こうとしている恋愛小説※2の舞台だからだ。その物語に出てくる列車は旧型客車時代の夜行急行大雪6号で、この小さな駅から2人は別れる。ホームには蒸気暖房※4の湯気の中、テイルランプが遠ざかって行く・・・。3面3線、左に古い側線郡。待合室は右手の奥(またしても下手な絵が書かれている)。

食堂車と常紋峠

食堂車に行く。ここから常紋峠だ。現在、食堂車を連結している列車は少ない。ローカル線で営業しているのは、この「おおとり号」だけだ。この古い形式の特急列車は編成の都合で食堂車が外せないが、新車には連結されていない。

石北本線は本線のくせに、ローカル線同然の地方線に分類されている。しかし、景色は抜群。特に常紋峠はハイライトである。食堂車の先客は1名。私は780円の北海定食を注文して待つ。

食堂車・・・当時の特急列車には連結されているものでした。

常紋峠は北海道開拓の為、タコ部屋の人を奴隷のように使い、死んだらトンネルの中に放り込んだり、壁に埋めたりした。まだトンネルの中に白骨が転がっているという。その峠のトンネル(常紋トンネル)を私は食事をしながら抜ける。

常紋峠をあえぐように登ってゆきます

車掌が隣で雑談中。乗客が相談に来るが、愛想よく対応している。いずれも、指定席の客が禁煙車の自由席に移動することについての相談だった。指定席にも禁煙車を設けるべきであろう。

途中駅で新車の「オホーツク1号」と交換。向こうが3分遅れで、「おおとり号」がじっと待つ。単線ならではの光景である。新人のくせにベテランを待たせるとは!

車窓が見えない

遠軽で客が増え、立ち客が出た。列車はスイッチバックして北見峠を目指す。突然、窓のブラインドが降ろされた。この車両は、座席2つ分の大窓にひとつのブラインドがついているため、後ろの席の人がブラインドを降ろしてしまうと外がまったく見えなくなる。ムッとして、少しだけブラインドを上げたが、また降ろされてしまった。その攻防をずっと続けた。

上川で、網走を約3時間前に出発した普通客車列車を追い抜く。ここからの車窓はつまらない。積まれた木材と山ばかり・・・。寝る。旭川で荷物列車を追い抜く。サボ※5には「大航」「東大航」「名航」と書かれている。今晩乗る夜行列車に連結される荷物車だろうか。

苗穂で旧型客車を見る。戦争前後に造られた古い客車も連結されていて、函館行きの行き先表示板が掲げられている。今晩乗る車両だろうか。数分遅れで15時頃、札幌に到着。列車はここで再びスイッチバックする。多くの乗客が列車を待っており、大混雑になったが、私はここで下車した。

最低最悪のススキノ

札幌でのインターバルは6時間25分。ゆっくりと散策する。大通公園を歩く。ビルに囲まれた街の中に大きな公園がある。このような公園が都会の真ん中にあるのは素晴らしいことだ。噴水の周りでは、ラジカセをバックに踊りまくっている若者の姿も見かけた。若い男女のカップルが歩いているのをよく見かける。札幌の素晴らしさは、公園が観光客のためだけにあるのではなく、市民も楽しんでいる点だ。すっかり札幌贔屓になってしまった。

さて、もう夕方だ。市電に乗ってススキノに向かう。歩けばすぐなのだが、あえて市電で一周して行く。「ロープウェイ入口」。こんな街中に山がある。住宅地を抜けて「中島公園」。二人用のホテルが多い。不潔だ。気持ち悪い。そしてススキノに到着した。夜の街で、東京で言えば歌舞伎町にあたる。

札幌市電でススキノへ

ラーメン横丁に行きたかったのだが、客引きが寄ってくる。
「若い子つけるからさ」
「どこから来たの?」
無視しても、客引きのお兄さんが付きまとう。黙っているのに、いつの間にか店に行く約束をさせられた形になっていた。そのお兄さんは、私をラーメン屋に案内してくれた。外で待っていたらどうしよう…。

それにしても、ラーメン屋の狭い事! そして客の多い事! 値段も最低600円~1,000円。ラーメンごときにバカバカしい。そして、お兄さんが外にいるかもしれないので怖くて、ラーメンどころではなかった。

ラーメンを食べ終わると、駅に向かう。さっきのお兄さんに見つかったら大変だ。別の道から逃げる。それでも他の客引きに声をかけられる。怖くて泣きべそをかいて走る。逃げる。そして道に迷った。駅の方向を通行人に聞くと「ここを2条ほど行ったところを曲がればいい」と言われたが、「条」って何? ススキノになんか来なければよかった。札幌なんて最低、最悪※6の街だ。訪れたのは大失敗だった。

さて、気を取り直して夜行列車に乗ろう。

解説

※1 老朽ディーゼル車
キハ82と言われた老朽車両。食堂車がついているのが特徴で、今回、常紋峠を食堂車から眺めるという事を楽しみにしていました。
※2 車内放送オルゴール
車内放送の前後で流れるオルゴール。ディーゼルカーは「アルプスの牧場」が定番でした。
※3 恋愛小説
当時、恋愛した経験はありませんでしたが、妄想癖は当時からあって、中学生の頃から色々な小説を書いていました。誰にも読ませない自分だけのものです。実は今も、Google Earthを見て、訪れた事がない場所を舞台とした、架空の旅の小説を書いていたりもします。もちろん公開しません。
※4 蒸気暖房
古い客車列車の暖房は蒸気式で、冬場には床下から蒸気が漏れて、幻想的な光景となっていました。
※5 サボ
表示板(サイドボード)に、列車の運用番号が記載されてました。航という文字は連絡船に乗せる意味だったと思います。
※6 最低、最悪
こう書くとクレームが来ると思いますが、今は好きですよ札幌。この30年後に仕事で訪れました。ススキノにも呑みに行きました。

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雨男
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