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サステナビリティ・レポートの構成要素(4)価値創造プロセス

企業がSDGsなどで示されるサステナビリティの課題に取り組む理由は、企業自身の持続性と、自社を取り巻く経済・社会・環境の持続性がつながっていると解釈されるようになってきたからです。一方、投資家など当該企業への財務資本の提供者にとっては、企業が持続的に事業展開することにより、当該企業の価値がどれほど高まるのかが大きな関心事項になります。そこで、企業は投資家向けに、自社の経済・社会・環境に関する非財務分野の実績を開示し、これが企業の財務実績や価値創造にどう影響するのかを説明することを求められます。この説明を報告書の形でまとめるのが、いわゆる統合報告書であり、その中で非財務実績と価値創造のつながりを示すのが「価値創造プロセス」になります。

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価値創造プロセス

統合報告書の趣旨や構成などは、国際統合報告評議会(IIRC)が2013年に公開し、2021年に改訂版が発表された「国際統合報告フレームワーク」において解説されます。同フレームワークでは「統合思考」という概念が登場します。統合思考とは、経営に非財務のESG(環境、社会、ガバナンス)を取り込むことです。ESG側面での経営基盤を備え、社会的責任を果たし、持続可能な社会に貢献しうる企業が、市場の信頼を獲得し、これが企業の長期的な企業価値の向上につながるという考え方です。経営者がどのような長期的視点を持ち戦略があるか、それがどのように実行され、組織の価値創造につながるのか、プロセスの提示が求められます。

「国際統合報告フレームワーク」では、この価値創造プロセスを「インプット」、「事業活動」、「アウトプット」、「アウトカム」という一連の流れで描かれる、ロジックモデルを用いて解説します。まずインプットとは、製品やサービスの提供に必要な資本であり、財務資本、知的資本、人的資本など様々なものから成り立ちます。これら資本を投入して、企業は事業活動を行い、各種の製品やサービスといったアウトプットを産出します。このアウトプットの産出は、経済・社会・環境の持続性に何らかの形で寄与することが求められます。この寄与によりアウトカムの発現に至ります。このアウトカムの発現により、企業の価値は増大し、将来の事業活動に投下されるインプットが増加することになります。これが価値創造プロセスの流れです。
本邦企業の統合報告書の中で、この価値創造プロセスは必ずと言って良いほど提示されています。名称は価値創造プロセスに限らず、価値創造モデル、価値創造ストーリー、事業創造プロセスなど様々です。その多くが上記のロジックモデルのアプローチをそのまま採用しています。インプット、事業活動、アウトプット、アウトカムのそれぞれが、価値創造プロセスの循環図の中で示されています。

ただ、その記述スタイルに統一的なものはなく、千差万別です。特にアウトカムの表現には差異が多く、財務と非財務の具体的な数値を提示するケース、「〇〇の創造」や「〇〇の向上」といった抽象的な表現を用いるケース、個々の成果をSDGsと紐づけるケースなど様々です。「国際統合報告フレームワーク」では、アウトカムの表現方法に具体的な指示がないため、各社とも価値創造プロセスの描き方について試行錯誤を続けている状況です。また、同フレームワークではアウトカムには正と負の両面があることが示されていますが、本邦企業の統合報告書の価値創造プロセスの中で、負のアウトカムの側面について記述しているケースは少ないです。

価値創造プロセスの中で、インプットとアウトプットの因果関係は自明であり、資本の投入量を増やせば、当然、製品やサービスの産出量は増加します。しかし、アウトプットとアウトカムの因果関係は自明ではなく、何らかの説明が求められます。製品やサービスを産出して提供することが、どうして経済・社会・環境の持続性に寄与するのか、そしてアウトカムの発現につながるのかを論理的に説明する必要があります。この論理があいまいだと、SDGsウォッシュという疑念を持たれかねないですし、価値創造プロセス自体が説得力に欠けます。

価値創造プロセスでは、アウトカムを発現することで、その後に企業の価値創造が実現することになります。このアウトカムと企業の価値創造との因果関係についても、客観的な説明が難しく、読み手側の判断にゆだねられる部分が大きいです。しかし、このアウトカムの発現と企業の価値創造との因果関係の明確な説明も、ロジックモデルに基づく価値創造プロセスの骨幹であると思われます。


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次回は「サステナビリティ・レポートの構成要素(5)ロジックモデル」についてご説明します。 

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