SDGsインパクト評価(1)
11月と12月、全4回に渡り「SDGsインパクト評価」について解説します。
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今日、日本ではSDGsは注目の的であり、事業活動等を通じてSDGsの目標達成に貢献しようとする企業が増えています。太陽光などの再生可能エネルギーの利用拡大はSDGsのゴール7の達成に貢献するものであるし、生産工程での廃棄物削減や再利用はSDGsのゴール12の達成に繋がります。あるいは女性社員に研修機会を提供し、女性管理職の登用に努めれば、これはSDGsのゴール5に資する行動と見なされます。
SDGsが国連総会の場で合意されたのは2015年のことであり、日本企業がSDGs達成への取り組みを始めたのは、2017年~2018年ごろからではないかと思われます。早くからSDGsへの取り組みを表明した企業にとっては、既に数年の月日が経過していることになります。こうした企業にとっては、単にSDGsに資する活動を実施しているだけではなく、それが実際にどの程度の効果を発現したかに関心が集まることは必然でしょう。SDGs達成に繋がると主張する活動を実施しても、それが実際にはほとんど効果が無ければ、そうした主張はSDGsウォッシュと批判されます。実際にどのくらいの効果があったのかを示すことが出来なければ、ESG(経済、社会、ガバナンス)に配慮する投資家に疑念をもたらし、その意思決定を左右しかねないです。また、SDGs達成に繋がると信じて、当該企業の製品を購入した消費者の信頼をも裏切ることになります。
企業のSDGs達成への貢献度をどのように示せば良いのか、何に着目して、誰がどのように効果を測定すれば良いのかといった問題について整理します。
<インパクト評価の定義>
最初に、SDGsインパクト評価という言葉の意味を明確にします。まず、「インパクト」とは何かを考えます。既に、「ロジックモデルについての解説」において説明しましたが、企業が活動を通じてSDGs達成に資する過程は、「インプット(投入)」、「アクティビティ(活動)」、「アウトプット(産出)」、「アウトカム(成果)」の順番でつながっています。さらに、最後のアウトカムは直接的なもの、中間的なもの、最終的なものと区分されることがあり、最終的なアウトカムを「インパクト(影響)」と表記する場合があります。2016年に国連グローバルコンパクトとGRIが作成した「SDGコンパス」では、このように示されています」
一方、2021年に国連開発計画が発表した「SDGインパクト基準」では、「インパクト」とは「アウトカムの長期的な変化」と定義されています。アウトカムが発現された次に来るのがインパクトではなく、アウトカムそのものの変化がインパクトと解釈されています。
日本では「インパクト」は「アウトカム」と明確に区別して使われているようには見られません。むしろ、SDGs達成に資する活動を行った結果、社会や環境に現れた何らかの変化というように広く捉えられています。したがって、ここでは、「SDGインパクト基準」での定義に準じて、「インパクト」とはアウトカムの変化と見なします。
次に「評価」という言葉の意味を考えます。文字通りに解釈すれば「価」を「評」するのですから、何らかの善悪の価値判断を伴うと捉えるのが自然です。しかし、日本語では日常的に評価は様々な意味で使われており、世論調査での「あなたは岸田政権の経済政策を評価しますか」といった質問のように、高く評価するという意味だけで使われることもあります。
「SDGsインパクト評価」として「評価」が使われる場合、SDGsへの特定のインパクトの善悪や優劣を判断するという意味では使われていません。例えば、A社のB事業が環境に何らかのインパクトを与えている場合、それが良かったのか、悪かったのかを価値判断することを期待されているわけではないです。多くの場合、A社のB事業がSDGsの達成にどの程度貢献しているのかについて、単に計測するという意味で使われています。そこでここでも、インパクトの評価とは単にインパクトの計測という意味で使うことにします。
こうしたインパクトと評価の解釈を踏まえ、本稿では「SDGsインパクト評価」とは、企業のSDGs達成への取り組みによって、社会や環境に現れた何らかの変化を計測することと捉えることにします。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 次回は、SDGsインパクト評価(2)として、アウトカムの変化を計測することが困難な場合について解説します。
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